君にくらくら 二日と開けずに社会科準備室に顔を出しては「恋人になれ」「キスしたい」「一泊でどこか行かないか」などと呆れた誘いを続け、隙をついてあちこち触ってきていた、素山猗窩座という問題男子生徒が、ぱったり姿を見せなくなって、三週間が過ぎた。
歴史担当教師の煉獄杏寿郎には、社会科の選択が地理である彼と、日常的には接点がない。「転校はしていないはずだが」「まさか重病。いや、事故か」と心配になってきた頃に特徴的なピンクの髪の後ろ頭を校庭の片隅に見かけ。
「学校には来ているのか」「では俺が何か傷つけるようなことを言ったとか……?」と、闖入者のいない静かな準備室でふと考え込んでしまう時間が増えてきた、そういったタイミングで、その噂は杏寿郎の耳に届いた。
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