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    ajsikrumrt

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    フォル学ネファ♀(ファ女体化)の卒業話
    続きます。
    ※付き合ってない ※アサ、シ、ヒも女体化軸 ※推敲弱

     桜の蕾が膨らみ始める頃、我がフォルモーント学園の卒業式は執り行われていた。
     大勢の見送られる生徒と見送る生徒が間隔の狭いパイプ椅子に座る中、ネロ・ターナーは見送る生徒側で卒業証書を受け取る卒業生をぼんやりと眺めていた。進学校、芸能校、不良校の合併は今でも奇妙なものに思える時があるが、文化祭を初め様々な行事を通して各校間の溝は徐々に埋まりつつあった。
     そのおかげか、卒業生の中には聞いたことのある名前や、見知った顔がちらほらあった。その中でも特に、思い出深い生徒の姿が壇上に上がると、ネロの視線はネロ自身も気づかぬうちに上げられていた。
    「ファウスト・ラウィーニア」
    「はい」と、彼女の意外にもはっきりとよく通る返事が体育館に響いた。普段と変わらない丈のスカートを靡かせ、学長の前まで進む。あまり見られたくないのか、顔を長く癖のある前髪で隠し、腰まで伸ばしたロングヘアはまとめずにいるくせに、背筋はまっすぐ伸びていた。
     ファウストが一歩進み、左手、右手と卒業証書を受け取り、礼をする。予行練習で説明されていたとおりの動きだ。帰路に向き直り颯爽と歩き始める彼女を見た時、ネロは「ああ、卒業するんだな」と初めて実感した。
     ファウストとは文化祭の準備で知り合って、話していくうちになんとなく波長が合うような気がして、いつの間にか勉強を教えてもらうようになっていた。それから、下駄箱で会った時に「おはよう」と挨拶し合ったり、一緒に学校の最寄り駅まで帰ったり。気づいた時には、ファウストのことが好きだった。
     昔馴染みの親友にそれとなく相談してみた時には、「タラタラしてねえで早く言っちまえ」なんて、無責任なアドバイス(にもならない言葉)を放ってきた。だけど臆病な俺にそんなことできるはずもなく、結局言葉にできずにファウストの卒業の時が来てしまった。彼女との付かず離れずな関係に居心地の良さを感じていた反面、この関係が壊れるのがひどく怖かった。
    (……卒業したら、会うこともなくなるよな。会う理由ねえし、勉強を教えてくれたのだって、「学校の後輩だから」だろうし……)
     その後も続く証書授与や来賓の祝いの言葉の間、ネロは視線を下げてこんな思考を巡らせていた。退屈に感じざるを得ないほど長ったらしい式が終盤に差し掛かっても、「ファウストと卒業後も会う理由」は見つからなかった。
    「卒業生、退場」
     ついに聞こえたそのアナウンスに、ネロは久しく上げていなかった顔を上げた。在校生の席の間をゆっくりと歩く卒業生の中にファウストを見つける。まっすぐと退場口を見つめて歩く彼女の視線がネロに向けられることはなかった。
     卒業式は全員参加とはいえ、元不良校の生徒の出席率はやはり悪かった。だとしても、ネロの座席は中央にあったため、ファウストが気づかないのも無理はない。まあ、人一倍真面目なファウストのことだから、俺の席が通路側でも気にする素振りなんてないだろうな、とネロは心の中で自嘲した。
     こんなことを思って悲しくなるのもこれで最後なのかと思うと、今すぐこの会場から飛び出して、彼女と顔も合わせずに、この関係を自然と消滅させてしまいたかった。



     荘厳なる卒業式が終わった後の校舎は、いつもとは異なる騒がしさに溢れていた。普段なら部活が始まる生徒たちの話し声や、当番制の掃除の箒を掃く音などが聞こえてくるものだが、今日はグラウンドや校門前に集まる生徒の、写真を撮るシャッター音や寂しさを伝え合う言葉たちが飛び交って聞こえていた。在校生ももう解散となり、帰途へついたり卒業生に挨拶をしに行く中、ネロはなんとなく自身の教室に残っていた。
     合併されたが故に卒業生は非常に多く溢れかえっていたが、教室の窓から外を眺めるとすぐにオリーブのロングヘアがネロの目に入った。ファウストだ。───好きな人ともなれば、一瞬で目に入るものなんだな、と改めて感じ、恋をしている事実に気恥ずかしくなる。
     ファウストは式が終われば、さっさと帰ってしまうものだと思っていた。しかし、流石生徒会長をやっていただけある。クラスメイトや後輩に目まぐるしく声をかけられているらしかった。その中には元進学校の現生徒会長であるアーサーや、ファウストのことを慕っている元芸能校のヒースなど、交流のある面々も見受けられた。苦手だと言っていた写真も、今この瞬間だけは許しているようだった。
    (……なんか俺、覗き見してるみたいだな。キモいかも)
     ネロはぼんやりしていた己を律して窓から目を離した。そろそろ帰るか、なるべく目立たないように裏門から、なんて考えながら鞄を手に取って教室の戸を引く。
    「ネロ」
    「うわ! えっ、シノ? 何してんの……」
    「こっちの台詞だ。あんなに世話になってたのに挨拶に行かないのか」
     なぜかネロの教室の前に立っていた黒髪の少女の赤い瞳は、鋭くネロの痛いところを突いた。「誰に」とは言わずとも誰のことを指しているかなど、シノもネロもわかっていた。
    「あー、いや、その、後で、挨拶しようとは、思ってるよ。そう、うん」
    「歯切れ悪いな」
    「っていうか、なんで俺が残ってるの知ってたんだよ」
    「ワタシをなんだと思ってるんだ。アイドルだぞ。数十メートル先だって見えなきゃ、客席にファンサできないだろ」
     グラウンドでファウストを初め、お世話になった先輩にヒースと挨拶をして回っていたら、教室からこちらを眺めるネロを見つけたということだった。アイドルは皆そんな超人なのか、というツッコミは置いておいて、どうやってこの場を乗り切るか考えを巡らせる。
     このままだと多分、いや確実にファウストの元へ連れて行かれる。センチメンタルになっている今ファウストに会って、「今までありがとう。さようなら」のような当たり障りのない挨拶をされたら、もう立ち直れない気がした。彼女に会わずひっそりと帰る口実を考え口を開いたが、先に言葉を発したのはシノの方だった。
    「後で、ってことは、この後の謝恩会に出るってことか」
    「は? 謝恩会?」
    「は? 聞いてないのか?」
    「あー……。なんか言ってたような気もするけど……」
     元不良校のクラスにいれば、教師の知らせがよく聞こえないことも珍しくはない。プリントも机の中に溜まりっぱなしなことがほとんどだし。
     シノによると、謝恩会は学長の屋敷で行われるとのことで、ドレスコードもある結構しっかりしたパーティーのようだった。今日の食費が浮くし困ることはないが、そもそも正装など持っていない。一人暮らし故に身近に借りれるような人もいなかった。
    「いや、俺は行かねえよ。そんなガラじゃねえし……」
    「じゃあ、いつ挨拶するつもりなんだ」
    「それは……」
    「ファウストも参加するって言ってたぞ」
     目を逸らしたネロは、その言葉にぴくりと反応した。ネロだって立派な男子高校生だ。刹那、脳裏に好きな子のドレス姿を想像する。いやいや! ファウストの綺麗な姿が見れたって、ドレスコードに合う服持ってねえ俺がいたって場違いだって!
     そんなネロの思考を見透かすように、「タキシードなら芸能校の衣装から貸してやる。調整が必要ならクロエだって協力してくれるはずだ」とシノが随分と機嫌が良さそうに言う。ネロは心の中で、かわいい後輩に押し負けただけ、誘いに乗ってやるだけ、などと言い訳をしながら、教室から一人暮らしの家ではなく芸能校の校舎へと歩いていった。
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