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    カシフサその沼は風船のような体を持ち武士を目指しているのだと聞いた。笑うつもりなど無かったが無理があるだろうと思ったものだ。ところが、その沼はいつの間にか体を得て鍛治と情報収集に明け暮れていたのだ。錬成したと言う体は逞しく、血の滲むような努力と鍛治師である事の証明が刻まれていた。その時が当方の憧れであり初恋であったのだろう。赤い鉢巻と青い外套を靡かせてその沼は当方を見て笑った。

     師匠から譲り受けた廟堂で、錬成の代償から出られなかった沼は笑い話だと言った。解放のペンダントを使い、晴れて自由の身となった武士はヘリコプターを操縦しパシリオーダーをこなす日々だ。時折、相方や相方を狙って住み着く中毒者がやって来るそうだ。迷惑だと言いながらその顔は楽しそうに笑っている。囲炉裏を囲み茶を啜り一息吐くと当方は尋ねにきた理由を話す。

    「愛剣を見て欲しい。」

    途端に目の色が変わった。姿勢を正し、向き合う。鞘ごと目の前に差し出せば割れ物を扱うように受け取った沼は鞘から慎重に引き抜いて刀身を見つめた。当方では違和感しか感じられなかったが、鍛治師なら分かるだろうと思ってここまで登って来たのだ。隅々まで見た後、手直す必要があると言った。数日要する事とその為の素材が幾らか足りないと。取りに行くから着いて来て欲しいと言われ、頷いた。

     代用のレイピアを渡された。武器とは年齢経過や使用頻度で壊れていくものだ。長年愛用している武器を手離さない沼がほとんどで、鍛治師の沼は丹精込めて修理をする為に代用を作ったのだと照れ臭そうに頬を掻いた。職人魂というのだろうか。真っ直ぐに向き合う姿を好ましく思う。感心の目を向けると照れた顔を隠してしまった。

     目的地に着くまでの道中、それは鮮やかに強かにエネミーを蹴散らしていた。代用で渡されたレイピアも手に馴染み使いやすかった。後から聞いた事だが代用武器は使用者に合わせて使い勝手良くしてあるのだと話した。鍛治師とはここまで見越すものなのだろうかと感心するばかりだ。鉢巻と外套が踊るように舞っている姿は見惚れてしまうほど鮮烈で、当方が着いてこなくても良かったように思う。とはいえ、好きな沼とニ沼きりでやって来たのだから格好つけたいと思うのは仕方ない事であり、見栄を張れないまま素材集めが終わってしまったことに密かに落胆した。

     廟堂に戻り、地下の鍛冶場で叩き直される愛刀を見ていると、見た限りでは分からなかった違和感の正体を話してくれた。刀身にうっすらと走る亀裂。エネミーの硬い皮膚や甲羅を貫いて出来たようなものではなく、当方の力によって亀裂が走ったそうだ。乱暴に扱ったつもりはない。狼狽える当方に、愛剣が当方の力に耐えられなかったのだと言った。要はパワーアップさせようと考えたのだ。鉄を打つ音が鍛冶場に響き、炉が燃える。これ以上邪魔をしないよう鍛冶場を後にした。

     数日後、叩き直された愛剣を取りに廟堂に来ていた。自信満々に手渡された愛剣を鞘から引き抜くとすらりと音を立て剣先が陽を浴びて目映く。立ち上がり軽く振ると空を斬る音がして心地よかった。鞘にしまい、腰に下げて代用のレイピアを返すと沼はニコニコと鞘を指して折角だから鞘に装飾しちゃったと言う。鞘を見れば細かい文字が彫られていた。派手すぎずシンプルで邪魔にもならない。見事な彫りに目を輝かせていると人差し指を口に当て特別だからね。とウィンクしてきた。当方だけにしてくれた特別な鞘。そう考えて心臓が跳ねる。鞘ごと腰から引き抜き握ってありがとう。と当方は微笑んだ。

    ーー

     満足気に手を振りニテツ峠を降りて行く背中を見送る。喜んで貰えて良かったと心の底から安堵した。騎士に一つ伝えてない事がある。きめ細やかな文字に混じって騎士の名を彫ってある。それを言うのは野暮だし気づかなくてもいいのだ。それは願い。騎士が倒れ伏しても愛剣だけは勇姿を覚えていられるように。鍛治師は見えなくなった騎士の姿に柔らかな笑みを讃え風に吹かれていた。
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