視線朝目が覚めると、ダンデの姿をしているけどダンデじゃない誰かがこちらを覗き込んでいた。
驚いて飛び起きて相手をじっと見つめれば見知った琥珀の瞳もこちらをじっと見つめながらゆるりと細められ弧を描く。
「誰だあんた。ダンデをどうしたんだよ」
俺からの問いに面白そうに片眉を上げ笑うその顔はやっぱりいつものダンデなのに何故か俺の頭はガンガンと警鐘をならすのを辞めてはくれない。
俺を見つめたまま笑顔を貼り付けてだんまりを決め込むそいつにもう一度誰だ?と問おうと口を開きかけた瞬間「なんでわかったんだ?」と聞きなれた声がそう答えた。
「なんでって……」
姿形も、匂いも、見慣れた琥珀もどれ一つを取ったって本物のダンデと変わらない。変わらないと言うかおなじだ。
だけど違うのだ。
中身が。
何か証拠があるわけじゃない。
だけど……
「オレをみる目がいつもと違うから」
いつもダンデはオレをまるで宝物か何かを見つめるように優しい目でオレをみる。
朝目覚めて一番最初にオレをみると、溶けてしまうようなこちらが思わず恥ずかしくなるようなそんな優しくて愛しくて抱き締めたくなるような、捧げられた愛をこちらも全力で返したくなるような視線がこちらに注がれるのに今目の前にいる男の視線は違うのだ。
まるでオレが誰かを探るような見定めるようなそんな視線でこちらを見つめてさらに笑みを深める男の胸ぐらを掴み「もう一度聞くぞ誰だあんたは。ダンデはどうした?」
大事な恋人の身体だ。
手荒なことはしたくないが中身が違うのなら、ダンデの身体から出ていかないのなら少し痛い目をみてもらわないといけないかもしれない。そんなことを考え更に胸ぐらをつかむ手に力を込めれば急に男の探るような見定めるような視線が柔らかなものに変わってハハッと軽い笑い声を唇から溢した。
「なに笑ってんだよ」
突然変わった雰囲気に戸惑いながら、眉をひそめれば「すまない、試すようなことをして。そんなに眉間に皺を寄せていたらハンサムが台無しだぜ?」そんな言葉と共に優しく眉間を人差し指で突かれた。
呆気にとられ思わず手を緩めればスルリと男は抜け出してオレの頭を撫で始める。
「は?」
なんなんだこの状況は。
相変わらずダンデはもとに戻らないし、ひどく優しい手付きで頭を撫でられているし全くわけがわからない。
「…………本当は君が目覚める前に身体は返すつもりだったんだ。ただほんの少しこの子がきちんと幸せかや、健やかでいるかを知りたかったんだ…………どうやらそんなことを心配する必要はなかったみたいだし安心した」
そういってこちらを見つめる視線はまるで親が子供に向けるような温かさを含んでいて撫でられているうちに何故かとろとろと抗えないほどに目蓋が重たくなっていく。
それに必死に抵抗しようと爪が食い込むほど拳を握りしめれば「大丈夫。心配しなくても次に目を覚ましたときにはダンデはもとに戻ってるから」と手付きと同じくひどく優しい声が耳朶を撫でた。
そして意識が完全に落ちる直前「君になら…任せられそうだ。ダンデをよろしく頼むぜ」と聞こえた気がしたがそれを確かめることはできなかった。
「キバナ、起きろ。早くしないと電車間に合わなくなるぜ」
ダンデの声が聞こえた。
わしゃわしゃと髪をかき混ぜるように撫でられ目を開ければ、いつもの優しい視線がこちらを見つめていた。
「……ダン…デ?」
手を伸ばして頬に触れたら嬉しそうにはにかみ、柔らかな頬が手のひらに押し付けられた。
「どうしたんだ?君にしては酷く寝起きが悪いなぁ」
クスクスと笑うダンデに腕を巻き付け抱き寄せながら眠らされる前のあの優しい手付きを真似するようにダンデの頭を撫でる。
撫でながら夢に落ちる前に起きた出来事を思い出して眉をひそめればそれをみたダンデがこちらをじぃっとみつめそっと指を伸ばして「そんなに眉間に皺を寄せていたらハンサムが台無しだぜ?」そんな言葉と共に優しく眉間を人差し指でつついた。
「え?」
ダンデの行動に驚き目を見開けば「父さんの受け売りだけど、ハンサムが眉間に皺を寄せていたら台無しだから眉間に皺なんか寄せていたらダメなんだぜ」と言ってくるからキバナは思わず深く息を吐き出して「……お眼鏡にかかったみたいで良かったぁ」と呟かずにはいられなかった。