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    クヴィアfnf

    @kuvia_fnf11

    主に自AUのあれこれ(小説、イラスト)を投稿します。

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    クヴィアfnf

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    ⚠️流血・暴力表現、死にかけるキャラ描写あり
    HopeBFが初めて自分の力に危機感を持つのとそのきっかけのお話(ざっくり
    かなり長いです。

    ##Soulless_AU

    頭が割れそうなほど引っ切り無しに響く声に思わず耳を塞ぐ。
    やってしまった、なんて思ったのもほんの少し。自らを運ぶ翼は消えてしまい、傷だらけのBFは<Void Monster>に囲まれた大地に落ちていった。
    真っ逆さまに落ちていく体は、直前で受け身を取ることで最小限のダメージで済んだ。が、しかし、ひどい頭痛と吐き気に襲われてはどうしようもなく、起きあがろうとした体はすぐに突っ伏してしまった。
    だんだんと薄れる意識の中、いっそのことここで眠ってしまいたい、などと危機的状況にも関わらずBFは瞼を閉じようとしていた。しかし、堕ちかけた意識はある女性の声によって戻されてしまった。
    「どうやらアンタの悪運もここまでみたいだな・・・?」
    「Cassan・・・dra・・・!」
    ゆっくりとした足取りで近付いたCassandraが、BFの胸倉を掴み持ち上げたままニヤリと笑う。あの男の配下である彼女を心底嫌うBFは、血の混ざった掠れ声で憎たらしげに彼女の名を叫んだ。
    ─嵌められた。何もかも。
    BFがここにいるのも、<Void Monster>に囲まれているのも、服や体のあちこちが傷つけられたのも、力が制御出来なくなるほど歌ったのも、逃げることすらままならないほどに満身創痍なのも、全てがBFを誘き出すための彼女の罠だった。
    「難儀だよなぁ?助けを求める声に抗えないのや魂を取り戻すのに歌わなきゃならないってのに、そんなに長く歌えないってのはさあ!」
    「ぐっ、ッ!」
    胸倉を掴んだまま、CassandraはBFの右肩にその鋭利な爪を突き刺した。それまで意識がぼうっとしていたBFは、Cassandraの攻撃によって覚醒する。途端、忘れかけていた声たちがうるさい程にBFを求めてきた。肩の痛みよりも激しい頭痛に顔が歪み、力が制御出来なくなった器は彼の限界を示すように赤い涙を垂れ流す。
    ─助けてくれ、と叫ぶ魂を奪われた人々から、世界からの悲痛な声に応える余裕も今のBFにはなかった。だんだんと弱っていくBFに、Cassandraはこの状況を打開できるだけの余力もなさそうだと感じた。
    「可哀想になあ・・・」
    苦しむBFを見てCassandraがそう呟く。その顔は可哀想なんてちっとも思ってない。弱い者虐めをする加害者のそれだった。憐む彼女は 、BFを掴んでいた手を緩めそのまま地面に降ろした。そして、地面に突っ伏すBFの背中を思いっきり踏みつけた。
    「この世界の全てはお前に助けを求める癖に、誰もお前のことを助けてくれやしない」
    胸を圧迫する衝撃にBFは声無き悲鳴をあげる。彼が立ちあがろうと腕に力を込めるたび、その小さな背に乗せた足に彼女は体重を込め続けた。
    「むしろ、救世主であるお前を傷付けるだけの害虫・・・」
    「それ・・・でもっ、俺は助けたいんだッ!!」
    「うわっ!?」
    なじるようなCassandraの言葉に、踏まれながらもBFははっきりと答えた。そして、呆気に取られた彼女の隙をついてふらつきながらも立ち上がった。予想もしていなかった小さな反撃に、Cassandraは思わず尻餅をつく。慌てて体勢を整える彼女の前には、傷付き頭を抑え苦悶の表情を浮かべながらもキッと自分を睨み付けるBFの姿だった。
    「この世界のことなんかお前に聞くまでもねーし、それでも俺はこの世界が大好きだ。喧嘩したり、欲望に素直だったり、すぐ落ち込んだりしちゃう世界を俺は好きだし愛おしいと思う・・・だから!」
    自らの気持ちを零したBFが、再び翼を広げ空に飛び歌い始めた。呆気に取られたCassandraが動くよりも前に、BFによって次々と囚われていた魂たちが呼び戻されていく。
    「お前らなんかにめちゃくちゃにされてたまるか、クソッタレ!!」
    BFの叫びが木霊する。力強い言葉が歌に乗り、周囲を囲む<Void Monster>の心へと届いた。励ますようなメロディーと勇気づける彼の声が、<Void Monster>の邪悪な魔力を祓う。
    レモン頭の化け物の姿が、次々に元の住人の姿へと変わっていくのを見てCassandraは焦った。歌い切り、守りのなくなった瞬間を狙って突っ込んだ彼女は、その鋭利な爪を力任せにBFに振り下ろす。
    物凄いスピードで向かってくる彼女の攻撃に、BFはすぐには反応できなかった。遅れて腕で庇うも、彼女の爪がBFの服を引き裂き肉を傷付ける。付けられた爪痕からは血が出たが、急いだCassandraの攻撃は致命傷には至らなかった。
    「くそがああああああッ!!」
    それにとうとう怒ったCassandraが雄叫びを上げた。すると体が肥大化し、人らしき面影を残した体は崩れて歪なモンスターの姿を取る。細かった腕は太く長くなり、手はBFを容易く握り潰せるほど大きく、彼女の武器である爪は更に攻撃性を強めていた。
    Cassandraはその巨体に似合わぬスピードで動き、空に逃げるBFを叩き落とした。地面に強く叩きつけられたBFは、巨大な体で踏みつけようとするCassandraの足を転がりながら避ける。自分の足の間を器用に転がりながら、踏みつけ攻撃を避けるBFに苛立ちが収まらず、彼女は地面ごとBFを宙に蹴り上げた。
    「ぐあ!?」
    「はっはぁ!これで終わりだ!」
    翼も消え、空中で身動きも取れないBFは迫り来る巨体をただただ見つめる。命を奪わんとするその爪が、スローモーションのようにゆっくりと振り下ろされるのを、BFまるで他人事のように感じていた。
    「死にナBF!!」
    「 B!!!」
    ─ザシュッ。と、何かが爪で引き裂かれた音が響く。もう終わるんだと思っていたBFは何が起こったのかすぐには分からなかった。
    迫る腕とBFの間に何かが割って入ってきた。それが何なのか。事態を把握した時には、BFは地面に落ちその上に自分を庇ってCassandraの攻撃を受けた愛しい人が、BFに覆い被さっている状態だった。
    「Pico!」
    「ナニ・・・!?」
    突如現れたPicoにはCassandraも驚く。
    覆い被さっていたPicoを抱きしめBFは彼の背中に触れた。BFを庇ったその背には痛々しい傷がはっきりと付けられ、彼お気に入りのカーディガンは切り裂かれており、パステルグリーンの生地がゆっくりと赤黒く染まっていく。
    「Pico、Pico!しっかりして!なんで・・・ああ、どうしよう、どうしよう・・・!?」
    Picoがそばにいるだけで、あれだけうるさかった声が少しずつ鳴りを顰めて掻き消えた。しかし、今のBFにはそんなことを気にしている余裕はない。
    彼の腕の中で愛しい青年の顔が痛みでほんの少し歪む。たったそれだけなのに、自信に満ちていたBFの顔がみるみる青ざめていきいつも以上に狼狽える。そんな彼の様子を見てPicoは、戦いで汚れた頬にそっと触れた。
    「B・・・怪我は・・・?」
    「俺はない!それよりもPicoが!」
    「僕は・・・だいじょぶ・・・」
    泣きそうになるBFにPicoは微笑みかける。今日になって、何故か聞こえるPicoの声が苦しそうだった。本人は笑っていたが、それでもBFは気が気でなかった。加護を持つ自分と違って彼はただの人間で、身を守る術を持っていなかったから。
    近くに丁度いい布がなかったため、BFはケープを脱いで彼に着せることで止血しようと試みた。が、その前にCassandraの腕がPicoを捉え、BFの目の前で握り潰すように力を込める。
    「Pico!」
    「は・・・はは、だァれかと思ったらお前か。まタ会ったナぁ?」
    「・・・!!」
    怪物となったCassandraがPicoを更に握りしめた。持ち上げられ足をばたつかせて踠くPico。
    そんな努力も虚しく、強い力で圧迫された彼は音にならない悲鳴を上げる。何の力も持たない非力なPicoでは逃げ出すことも出来ず、締め付けられる痛みに顔が歪むばかりだった。
    「やめろ・・・やめてくれ!」
    「ハッ、やめろって言われてヤメル奴が今までいたカ?お前は兎モ角、こいつハ今すぐこの場でグチャグチャにしてやる!」
    言い終わらない内にCassandraはPicoを高く放り投げ、何度も何度もPicoに攻撃を浴びせる。すでに限界を迎えていたBFの体が、助けに行こうと駆け出す途中で倒れてしまった。Cassandraの爪がPicoを傷付けるたび、服が破れ引き裂かれた皮膚から血飛沫が飛ぶ。その光景を泣きそうになりながら、BFはやめろと掠れた声で何度も叫ぶ。
    宙に放られズタズタにされたPicoが、再びCassandraの手に落ちた。ハッとしたBFの目には、力無くグッタリしている恋人が今まさにCassandraにトドメを刺されようとしているところだった。
    「じゃあな、チビすけ・・・今度こソ送ってやルよ、両親ノところにナっ!!」
    Cassandraが手を開く。支えるものがなくなったPicoの体は、彼女の手から滑るようにすり抜け落ちていく。空中に晒された意識のないPicoに、頭上から勢いよく爪が迫るその時。
    恋人を失う悲しみと絶望で満たされたBFから、黒い衝撃波が放たれCassandraを襲う。その黒い衝撃をモロに受けたCassandraは、砂煙を上げながら後ろへ吹っ飛ばされ瓦礫に体を強く打ち付けた。
    「ぐっ、クソ、一体ナニが・・・」
    上体を起こしたCassandraの目に映ったのは、殺すはずだったPicoと彼を抱きかかえながらゆっくりと降下していくBFの姿だった。BFは地上に降り立つとそっとPicoを横たわらせ、ゆっくりとした足取りでCassandraへと歩み寄る。
    真紅の瞳には激しい怒りの炎がチラつき、広げられた翼はいつもの鮮やかな青が消え、黒い翼からは闇が溶け出すように溢れていた。何も言わず感情の一切を削ぎ落としたまま近付くBFを、彼よりも倍以上に大きな体で彼女が見下ろす。先程までと打って変わったBFに、何故かCassandraは恐怖を抱いていた。
    得体の知れない恐怖に彼女は必死に後退りする。無様にもその巨体で逃げようとしていたが、それを許さないBFはすでに彼女の体を掴んでいた。
    「離セッ!ヤメろ・・・!」
    立つのもやっとなはずなのに、一体どこにそんな力が残っているのだろうか。4m近くもあるCassandraが踠きに踠いても、その場から離れることは愚かBFを振り解くことも出来なかった。やがて、その様子をじっと観察していたBFがゆっくりとある言葉を口にする。
    「─自分を攻撃しろ」
    一体何を言い出すのやら。自分を攻撃しろと言われて、行動に移す奴なんて誰もいない。しん、と静まり返った場でモンスターとなったCassandraの声だけが響き渡る。
    「笑わせテくれるなよ、クソ救世主サマ。自分ヲ攻撃シろ、だって?アッはハは!とうとうオカしくなっチまったのカ、ッ!?」
    何が起こったのか分からない。ゲラゲラと下品な笑みを浮かべていたCassandraは、モンスターとなった自らの腕と体を見つめた。
    ─今、アタシは何をした。
    その問いに答えるものはいなかった。何が起こったのかを彼女が認識するよりも、彼女の手が自らを攻撃し始めた。
    BFやPicoを引き裂いた爪が、自分目掛けて何度も何度も引っ掻いた。爪が皮膚を抉り、引き裂き、力任せに自分を殴って自らを痛めつける。
    彼女の、Cassandraの意思とは関係なく─。
    「ヤ、ヤメロ!ナゼ体が勝手にうゴ、くっ!?」
    やめろと喚く間も彼女の体は自身を痛め付けるのをやめなかった。ダメージを負い、ぼろぼろと崩れていく体が少しずつ小さくなり、モンスターから人の形へと戻る。
    こんなはずではと狼狽えるCassandraに、再びBFが近付いた。先程のことでBFに恐怖を抱いた彼女が情けない悲鳴を上げる。その場で尻餅を付き、怯え切った表情でその場にあった小石を投げては後退りを繰り返す。
    対して痛くもない抵抗など気にも止めず、BFはCassandraの胸倉を掴み、怯えた眼差しの彼女の頬に手を添えて呟いた。
    ─自分で首を絞めろ。
    言葉の意味を知った途端、かひゅっと喉が締まった。気付けばCassandraは自分の首を、その手で締め付けているところだった。
    空気を求める体が足をジタバタさせる。どうにかしたくとも、首を絞める原因を跳ね除けてくれるはずの手が、更に力を込め自分を苦しめている。死にたくないと足掻き、力む彼女の顔が赤く染まったかと思えば、酸欠でみるみる青ざめ始めた。
    「やめろ、Benedetto!」
    ばたつく足が少しずつ勢いをなくし、いよいよかと思われた時、背後から聞こえた懐かしい声にBFはハッとする。誰かの声で正気に戻ったBFが、目の前で首を締め続けるCassandraを見て慌てて叫んだ。
    「やめろっ!」
    その声が発せられたのと同時に、Cassandraはようやく死の手から解放され大きく息を吸い込んだ。迫る死からの解放に、力んでいた力が深呼吸と共に一気に緩む。ぜいぜいと荒く呼吸し、自分が死んでないかを確認するかのようにCassandraは体のあちこちを触りまくった。
    一方で、BFは信じられないといった面持ちで自らの手を恐る恐る見つめた。目を見開き冷や汗をかきながら、はっはっと荒く呼吸をし続ける。わなわなと震える彼の体を、誰かが後ろから抱き寄せた。
    「B、大丈夫?」
    BFの心に優しい音色が響く。震える手をぎゅっと握りしめ、「大丈夫、大丈夫だよ」と声をかけながらぽんぽんとBFの胸を叩く。
    「Pi・・・co・・・」
    声のする方へと顔を向ければ、傷だらけながらもBFに微笑むPicoの姿があった。もっと彼の顔を見たいのに、視界が濡れてよく見えない。
    彼に向き直り、たまらず抱きしめれば彼も抱きしめ返してくれた。それまで我慢していたのに、たったそれだけで決壊し、BFは大声で泣き叫んだ。
    「Beeeeeeep!Picoのばかー!おれっ、俺、お前が死んじゃうのかと思ってええぇぇぇ」
    「ごめん。でも、それはお互い様・・・」
    BFの涙で服が濡れるのも構わずに、Picoは泣きじゃくるBFをあやす。ここでBFは初めてPicoの声に違和感を感じた。
    声が出ないはずの彼の口からは音が出ていた。いや、正確には特殊なマイクを通して発せられた“限りなく肉声に近い音”だ。壊れているのか、その音には雑音が混ざっていた。
    「はっ、はあ、っ、うぁ・・・はぁ、はぁっ!」
    「君の負けだ、Cassandra」
    息を整えるCassandraにPicoがはっきりと告げる。それに気分を害した彼女だったが、キッと睨むBFの姿を認めて攻撃するのを躊躇った。
    「ア、アタシの負けだって?」
    「手下を使ってBを誘い込んだにも関わらず、手下は解放され、君もそれだけのダメージを負った。これはどう見ても君の負けだよ、Cassandra!」
    「バカな・・・!アタシはまだ負けてなんかっ!」
    ノイズ混じりの声で淡々と述べるPicoに、Cassandraはふざけるなと喚く。よろよろとした足取りでPicoに近付くが、そんな彼を庇うためにBFが前に躍り出ると途端にひっと短い悲鳴を上げ後退った。今の彼女には、罠を仕掛けBFを追い詰めていた時の気迫がもうなかった。
    「ちく、しょぉ・・・こんなはずじゃなかったのに・・・!」
    生まれて初めてあの男以外に負けた。Cassandraには心底それが信じられなかった。ただのチビだと思っていたBFに、まさか恐怖するなんて思ってもみなかった。打ちのめされた彼女が握り締める手から血が滴り落ちる。やがて膝から崩れ、悔しさを全面に出すように何度も地面を殴り続けた。
    その手が傷付き、土に赤が混じるほど殴り続けたその時、彼女の脳内で声が響いた。
    ─戻れ、Cassandra。
    地の底から響く声にハッとし、Cassandraは周りを見渡した。姿は見えないが、主の声だとすぐに分かる。
    挙動不審になったCassandraを見てBFとPicoは身構えた。警戒し身を固くする二人を他所に、主の声に集中し続けるCassandra。
    そんな彼女たちの様子に構わず、顔の見えない声の主はそのまま続けた。
    ─私のかわいい小鳥。今回は素直に認めようじゃないか、負けを。私はキミの眼を通して全てを見ていたよ。ヤツらに負けたとて私はキミを咎めるつもりはない・・・。
    彼女の中にイメージが浮かぶ。誰も居ない空虚な場所で、ただ一人つまらなさそうに玉座に座り込むレモン頭の姿が。
    テーブルらしきものに置かれたティーカップの中身を飲む姿は、彼女がよく目にする光景だった。まるで庭園でティータイムをするかのように、目を閉じて優雅な仕草でレモン頭は茶を飲む。自らの配下が運ぶ茶菓子に伸ばす手はゆったりとしており、その大口を開けて茶菓子を放り込む彼は寂しそうにCassandraへと念を送った。
    ─キミがいないとこのひと時でさえ退屈だ。早く私を退屈から連れ出してくれないかい・・・?
    自分をただの手駒としてしか思われてないだろう相手に、まさかそう言われるとは思っていなかった。Cassandraは敵の前だというのに、少し顔を赤らめ慌てて主が居るであろう場所に向き直る。
    「申し訳ありません。今すぐお戻りします!」
    とこの場から立ち去ろうとした。が、ふと思い出したかのように振り返り二人に対し叫んだ。
    「今回は負けを認めてやる・・・!次はこうはいかないからな!!」
    捨て台詞のように吐き、そのまま彼女は上空へと飛び去った。あとに残されたのは傷だらけの二人と、化け物から元の住人へ戻ったその一部と木偶人形だけだった。
    Cassandraが完全に見えなくなったのを見届けてから、Picoははーと息を吐き、すぐさまポケットからペンのようなものを取り出した。取り出したペン先の出っ張りを押すと、ペンが縦に割れて広がり、割れたペンの間に液晶モニターのような何かが浮かび上がった。
    慣れた手つきでパパッとタブレットを操作するPico。それを落ち着きのない様子で見守るBF。しばらくして、Picoのヘッドセットからお目当ての人物から通信が入った。
    通信の相手が何事かを聞く前に、有無を言わさぬ口調でPicoは淡々と用件だけを伝える。
    「ごめん、車を・・・いや、何人か人と運搬車手配してくれる?」




    「なるほど、そんなことがあったんだねぇ・・・」
    Picoから詳細を聞いた男が、ホットココアを作りながらしみじみと頷く。そして、彼お気に入りのカップに入れられたホットココアをPicoの前にそっと置いた。
    カップの中にはマシュマロが三つ入っていた。

    あの後、レジスタンスから手配させた隊員数人と運搬車のお陰で、怪物から元に戻り眠っている住人たちを安全に運ぶことができた。知り合いからは何があったのかをしつこく聞かれるも、満身創痍なBFとPicoにはそんな余裕はなく、ガチャ切りに近い形で無理矢理通信を切った。
    恐怖と体に蓄積されたダメージとギリギリの体力で保っていたPicoは、その直後に糸が切れたように眠ってしまった。
    そこから先の記憶は全くないが、目覚めた時には自室のベッドで眠っていたため、BFがここまで運んでくれたんだろうと思った。
    ─その、肝心のBFは目覚めた時から見当たらなかったが。
    「ごめん、Ray。いきなり飛び出して」
    特殊なヘッドセットも必要のないこの家で、Picoの口がそう形作られる。声がなくとも言いたいことが分かるのだろう、それを聞いたRaimondoはゆっくりと頭を横に振る。
    「謝らなくていい。それに、あの子が何も言わず飛び出すのなんて今に始まったことじゃない。もちろん、あの子を心配してキミが飛び出すのも・・・」
    組んだ手に顎を乗せてそう話す。Raimondoのライト状の頭部には顎はもちろん、生き物らしい表情なんてない。それでも長年家族として一緒に過ごしてきたPicoには、優しい笑みを浮かべて「全く、困った子達だ」と彼がそう言っているように聞こえた。
    「うん、ごめん。それとありがとう・・・」
    「おや、礼を言われるほどではないのだが・・・ふふ、どういたしまして」
    ああ、帰ったきた。何気ないやりとりで、Picoはようやく安心できた。
    Picoは、本当はCassandraが怖かった。最初は何故そう思ったのか分からなかったが、あの時の彼女の言葉で確信した。
    今度こそ殺されるかもしれない。そう思うと怖くてなかなか前に進めなかった。けれど、いざBFが死ぬかもしれないと思った時には、体が勝手に動いていた。飛び出して彼を庇ったその体には、うっすらと獣のような爪痕が残っている。
    Cassandraという脅威が立ち去り、気絶するまでPicoはずっと警戒していた。家に帰り、Raimondoと話してようやく彼の緊張が解れたのだ。
    「・・・あ、そうだ。B見てない?今朝から見かけなくて」
    「ああ、あの子なら──





    星が煌めく夜空の下、人気の無い場所でBFは自らを隠すように体を翼で覆った。もっとも、鮮やかな青に彩られた黒い翼では、かえって目立ってしまうが。珍しくもその美しい翼で隠した表情は暗く影を落としていた。

    「・・・・・・」
    今まで、あの憎きレモン頭が喰った魂を呼び戻す自分の歌が、声が、相手の心を聴き直接声を届かせられるこの力が、誰かを傷付ける“凶器”になるだなんて彼は思いもしなかった。
    初めてPicoと出会い、触れて名前を聞いた時、彼はBFに「触れている時は言葉に気をつけてね」と教えてくれた。この世界に落ちて、BFは初めて自分の力が如何に危険なものかを悟った。Picoが教えてくれた言葉の意味が、Cassandraと対峙し感情の闇に突き動かされたまま力を使うことで、ようやくそれに気付かされたのだった。
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    ❤👏😭💖
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    クヴィアfnf

    DONE⚠️こちらはくりとさん(@KyqDdg2)作【Investigator_AU】と自AU【Soulless_AU】のクロスオーバーです。
    探索者BF、GF、Picoの三人が、Dlemonの脅威に晒された世界に迷い込み、そこで自分たちとそっくりな人物と出逢うお話です。
    お話は基本的に探索者BF、GF、Picoの視点や知識を元に展開します!
    episode:??  ─ Side P ─ 目が覚めたら知らない場所で大の字で寝ていた。肌を撫でる風に混じった鉄臭い匂いと冷たさが、微睡みの中にある意識を一気に覚醒させる。
    弾かれるように上体を起こせば、辺り一面には平原が広がり、そのあちこちで崩れた壁や瓦礫、割れたガラスの破片や何かの機械の残骸などのガラクタの山々が点々と見えた。
    
「・・・・・・」
    
何処だ、ここは。まるで自分を取り囲むようなガラクタの山々の中心で、心でそう溢した青年が一人ポツンと佇んでいた。
青年ことPicoは、初めて見る景色にlaf<銃>を構え周囲を警戒する。先程まで─半ばPicoが連行された形で─一緒にいたあの二人の姿が見えない。
    何処にいるのか探そうと動く途中で、何かの気配に気付き今もこうして銃を構えている。何かがいる。なのに、それが何なのか分からない。足音や呼吸音、気配などでそれが人なのかクリーチャーなのかが分かるPicoにとって、それは初めてのことだった。
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