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    護衛🟥と配管工🟩の序盤の序盤の序盤のやつです。
    いつか続くでしょう…いつか…

    護衛🟥と配管工🟩護衛と配管工の話

    2023年10月5日(木) 19:09

    数日後に建国記念日が訪れるきのこ王国では街中が熱気で溢れ返っていた。
    皆がこの国を愛し、一国のプリンセスを愛しているここでは、建国記念日はただの祝日ではない。ニューイヤーや他のホリデーと同じように国全体で盛大に祝う大切な日であった。
    見目麗しい我らがプリンセスによる演説、護衛隊による行進、パレード、出店、様々なショー。
    とにかく全てが盛大で、大掛かりで、まるで巨大なおもちゃ箱かプレゼントボックスをそのままひっくりかえしたかのような騒ぎになる。
    国民達は何週間も前からカレンダーに赤丸をつけて楽しみにしており、街は記念日と連休のための買い出しに来た人でごった返していた。
    もちろん、しがない配管工であるルイージもその日は久しぶりの休みにしようと仕事の予定を入れなかった。自営業のため一日でも収入が減るのは出来れば避けたい事だったが、今のルイージには収入よりも大切なことがあった。
    窓口からチケットを受け取り、お礼を言ってコインを10枚支払う。覚悟を決めてはいたが、大金が己の手を離れて行く時はやはり心が少し傷んだ。
    記念式典が行われる日は、他の国からも観光客が多く訪れるため、近頃は混雑を避けるために道路が新しく整備され、式典のための有料観覧席も設けられた。ルイージはまさにその有料観覧席のチケットを買うために数ヶ月も前から予約をし、この長い長い列を辛抱強く並んだのだった。
    「良かった…結構前の席取れた」
    "B列9番"と印字された薄ピンクのチケットを大事にポケットにしまい込み、ルイージは販売所を後にした。
    普段なら躊躇するであろう大金を叩いてまでルイージは式典を見たかった。否、ある人物をしっかりとその眼に収めたかった。
    弾む息を抑えながら早足で自宅へ向かって歩いていると、建国記念日のために店先に並べられた色とりどりのグッズが目に入り、足を止めた。
    護衛隊隊長であり一国の英雄でもある彼のトレードマークの赤い帽子が刺繍された小さなボタンバッジが、お行儀よく白いクロスがかけられたテーブルの上に置かれてあった。
    その横にはプリンセスの王冠をモチーフにしたものや、キノコ王国の名物であるキノコやスターをモチーフにしたものも同じように列を成しており、テーブルの上に小さなレインボーロードが伸びているように見えた。
    じいっと覗き込んでいると、それに気づいた店主が近づいてきて「他にも種類があるからゆっくり見ていってくださいね」と言って微笑んだ。
    ルイージが着ているシャツのボタンより一回りだけ大きなそれはシックな赤い色の糸で丁寧に紡がれていて、普段使いの服につけても程よく馴染んでくれそうだった。
    「じゃあ、これください」
    「はい、ありがとうございます 袋は?」
    「ああいえ、つけて帰ります」
    コインを1枚店主に手渡し、ルイージは早速自分のものとなったバッジをオーバーオールの胸元あたりにつけた。完全に浮かれていることにはルイージ自身も自覚していた。予定になかった出費をしてしまったが、それすらも楽しく思えて頬が緩むのを止められなかった。
    ルイージは胸もとで輝いているバッジを軽く指で撫でると、そのまま鼻歌を歌いながら軽い足取りで街はずれにある自宅へと向かった。



    「せっかくのお休みだったのに…ごめんなさいルイージさん」
    「いやいや、気にしないで!せっかくの記念日に水浸しのまま放置するわけにも行かないよ」
    ルイージはキッチンのシンクの下に潜り込んで、歪んでしまった排水管を修理していた。
    今朝、意気揚々と出かける支度をしている時に、
    お得意様であるキノピオから半ばパニック状態の連絡が来たのである。
    足元の収納スペースに無理やり大きな鍋を押し込んだせいで、鍋が老朽化していた配管に当たり、大きな裂け目ができて水がそこから溢れ出てきてしまったようだった。ルイージが慌てて工具箱を引っさげてキノピオの家に到着した頃には、もう既にキッチンの床が水浸しになっていた。
    出来るだけ急いで手を動かしたつもりだったが、周りのものをどかしたり、床の水をモップで拭ったり、修繕作業行ったりしているうちに時刻は午後を回り、建国記念式典は正しく大サビを迎えているらしく家の中にいても外のお祭り騒ぎが聞こえて来るくらいだった。
    最後のナットを締めて、ルイージはよっこいしょと体を起こし、軽く背中を伸ばした。
    「かなり老朽化してたみたいだからその部分を新しく取り換えたよ!これで大丈夫な筈…もしまた水漏れがあったら何時でも連絡してね」
    「ありがとうございますルイージさん!本当に助かりました!」
    心底ほっとした様子のキノピオに軽く会釈を返し、工具をテキパキと片付けながら壁にかかった時計をちらりと見やる。パレードの殆どを見逃してしまったが、この時間ならまだ走れば行進やスピーチ間に合うはず。
    「あ!そうでした、今日のためにパイを焼いたんですよ!お礼と言ってはなんですが良かったら食べていってください!」
    キノピオは思い出したようにそう言うと、いそいそとルイージの手を引いて近くにあったダイニングチェアに座らせた。
    「えっえっあっ、いや…僕は…」
    「遠慮しないでください!せっかくの休日に呼びつけてしまったお詫びです!ささっ好きなだけ食べてくださいね!」
    一体どこにしまっていたのかと問いただしたくなるほどの様々な種類のパイを冷蔵庫から取り出してはダイニングテーブル一杯に広げ、さらには紅茶も入れようと直したばかりのキッチンに立つキノピオを慌てて引き止める。
    「ほんとに大丈夫!お気持ちだけ頂くよ この後も予定が入ってて急いでるんだ ほんとに、ありがとね!建国記念おめでとう!」
    ルイージはそんな感じのことを早口で捲し立て、半ば逃げるようにしてキノピオの家を出た。
    扉一枚隔てていただけなのに、外の賑やかさは部屋の中で聞いていたものより何倍も大きく耳がキィンとなるのを感じた。
    大通りは人で埋めつくされ、進んでいるのかどうかも怪しいまま、ゆらゆらと動いていた。
    「ああ…どうしよう…」
    ルイージの心臓は不安と焦りからかつてないほどに跳ね、ドッドッと体の奥から振動が伝わってくるほどだった。
    何とか深呼吸をして自身を落ち着かせ、帽子をしっかりとかぶり直す。こうなったら多少強引に突っ切って行くしかない。絶対あの人に会うんだ。
    「失礼!通るよ!ごめんねっ」
    脇道へそれ、屋台のテント屋根やブロックを足場に人々の頭上をかけていく。
    フェンスを乗り越えて無我夢中でひた走るとようやく会場として設置されたエリアが見えてきた。
    「やった!もう少しだ…!」
    会場が見えてきたことに気が緩んだのか、近くで日向ぼっこしていた猫に気づかず思いっきりそのふわふわのしっぽを踏んずけてしまった。
    急な敵襲に怒った猫はルイージを目掛けて飛びかかり、鋭い爪がその鼻先と髭をかすった。
    「うわわわわわごめんっごめんよお!」
    何とか怒り心頭の猫を振り切り、ポールに掴まって地面に降りる。
    指定席と看板が立てられた目の前までやってきて、ようやくルイージは膝に手を着いてすっかり上がった息を整えた。ちょうど姫がこれから広場の中央に設置された壇上に登壇してスピーチを行うところだったらしく、周りのそわそわしている空気が伝わってきた。
    「良かった……間に合った…」
    カバンの中をまさぐり、走ってカバンの中で他のものと一緒にかき混ぜられたせいで少しクシャクシャになったチケットを取り出す。
    「途中入場はできませんよ」
    チケットを片手に席を探そうとしたところ、スタッフらしきピノキオが腕を広げて制止してきた。
    「えっでも僕チケットあるのに!あっあそこ!あの空いた席が多分僕の席です!B列9番…」
    ルイージは慌ててぽっかりと一つだけ空いた座席を指さしたが、スタッフのキノピオはまるで取り合わず「ですが途中入場は出来ません。もう少し早く来るべきでしたね」と繰り返すばかりだった。観客席に座っていた他の客が数人騒ぎに気づいたのか振り返ってじっとこちらを見て来た。
    ルイージはショックで真っ白になる頭を何とか働かせて、「じゃあ、どこなら入れます?」と絞り出した。
    「自由席の方か立見席なら」
    キノピオが指さした方を見やると、両方とも人がこれでもかというほどに詰め込まれているのが見えた。ルイージはすっかり気を落として、今いる場所から1番近い立見席の方へのそのそと移動した。
    「ごめんなさい、通りまーす ごめんよ 空けて〜」
    みんなより良いポジションで姫を見たいのか、親切に道を開けてくれる人は少なかった。








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