Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    pandatunamogu

    降新文をポイポイします

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💗 💖 🐼 💒
    POIPOI 34

    pandatunamogu

    ☆quiet follow

    今年の正月に書いた降新

    ##降新

    A Happy New Year 紆余曲折ありつつ長年思い続けた相手と恋人になり、生活を共にするようになってから三年。
     毎年、『今年こそは一緒に年越しを……!』とクリスマスも共に過ごしてあげられない己の不甲斐なさをヒシヒシと感じながら一昨年も去年も結局は別々に新年を迎えてしまっている現状に、三度目の正直で今年こそはと死ぬ気で何とか時間を工面するため奔走し、ようやくどうにかこうにか六時間ほどの休憩時間を確保できる見通しが立ち、ふと己の左腕に嵌った、恋人からプレゼントされた高級時計に視線を向ける。時刻は夜の十一時を少し回ったころ。このまま行けば年越し前に二人の家に帰り着き、共に年を越せるなと思わず頬が緩む。ちょうどそのタイミングで提出書類とデータを手にやってきた風見も、降谷の表情が伝染したように顔を綻ばせた。
    「ようやくですね。今年こそ年越しをお二人で迎えられそうで何よりです」
    「ああ。頼むから何事も起こらないでくれよと願うばかりだ」
    「降谷さん。それ、フラグですか」
    「縁起でもないことを言うな」
     そう軽口を叩き合いながら書類を受け取り目を通している最中に、宜しくない一報が入った。

     すべてが片付き、周囲から見ても明らかなほどガックリと肩を落として項垂れ、完全に意気消沈している上司に声を掛けられるような猛者は、この部署で風見を置いてほかに居ないだろう。
     案件は無事に成功を収めたと言うのに、まるで彼の愛する日本全土が沈没でもしたかのように落ち込んでいる降谷に、風見は声を掛けた。
    「彼なら分かってくれますよ。それに今の案件を片付けたことで、一日二日と奇跡の正月二連休勝ち取れましたよ」
    「…………不甲斐ない。今年こそ一緒に年越し出来ると思って、LIMEでメッセージまで入れたんだ。すごく喜んでくれていたのに……」
    「それも込みで降谷さんを受け入れてくれたんでしょう、彼は。一人大反省会している時間があったら今すぐ帰宅して寂しく一人寝している工藤くんを抱きしめてあげてください」
     生真面目で普段はこの手の発言などまずもってしそうにない部下にそう背中を押され、降谷はカバンとキーケースを引っ掴んで駐車場に向かった。
     いい加減、愛想をつかされているかもしれない。
     もしかするともう二人の家から居なくなってしまっているかもしれない。先程から考えれば考えるほどマイナスな想像ばかりが頭に浮かんでしまう。
     まるでそれらを払拭するように愛車のエンジンを吹かした。

     法定速度をかろうじて遵守しながら家に帰りつき、そっと外から二人の部屋の電気を確かめる。ひっそりと暗いその部屋は、現在時刻を考えれば当然とも言える。
     玄関のドアを開け、彼の靴が揃えて置かれているのにホッと胸を撫で下ろす。いつから自分はこんなに臆病になってしまったのだろうか。
     キッチンも、リビングも、ひっそりと人の気配はなく。ただ、食卓には裏返された年越しそば用の丼と降谷の箸が置かれており、ズキリと胸が痛む。よくよく見ればキッチンのガスレンジには、そばを茹でたと思しき鍋が綺麗に洗われ、置かれている。今年こそ、降谷が腕によりをかけて手打ちそばを振る舞いたかったのに。二人でコタツに入って向かい合って、来年もよろしくなんて言いながら年越しそばを啜って、総合格闘技の番組と歌合戦とお笑い番組を楽しみながら除夜の鐘にしんみりしたかったのに。
     そっと寝室に入ると、こんもりと一人分、いつもの彼の定位置に小山ができている。
     なんだかその小山を見た瞬間、たまらなく愛おしさと切なさとやるせなさが込み上げてきて、本音を言えばすぐに布団に潜り込んで彼を起こさぬように気遣いながら背後から優しく包み込んでその髪に顔を埋めて眠ってしまいたかったが、一旦浴室に向かって全身を綺麗さっぱり洗い清めると、普段はボクサーパンツ一枚で潜り込むところを珍しく彼と揃いのTシャツに袖を通し、ゆっくりと布団に潜り込んだ。
     すっかり年を越して時刻はもうすぐ夜中の二時になろうとしていた。スゥスゥと規則正しい寝息を立てる愛らしい恋人を背後から優しく抱きつつみ、そっと腕枕をすると不意にきゅ、と指を絡められて手を握られ、驚き目を見開くと、コテンとこちらに顔を向けてきた。
    「今日もおつかれ、零さん。おかえり」
    「お、きてたの?……それとも起こした?」
    「ふは。まあね。さすがに寝てたけど」
    「うわっ、ごめ……」
    「いいって。本当は寝ないで待ってるつもりだったし。あ、まずはこれを言うべきだったな。『A Happy New Year』」
    「ーっ。新一くん。ごめん。今回こそ年越し一緒にしようって言っていたのに」
    「ふはっ。だからンーな死にそうな顔してたのかよ。大丈夫だって。さっきニュースで報じてた一件だろ?半年追ってたヤツじゃん。年をまたぐ前に片付けられて良かった良かった」
    「……良くないよ。今年こそは一緒に年越しそば食べて年を越そうねって約束したのに……もう三回も約束反故にしてしまっている」
     途端にしょげてしまう降谷の頭を抱き寄せると、新一はいい子いい子するように頭を撫で、その額にチュ、とくちづけた。
    「俺は、そんなにアンタだからこそ惚れたんだ。信念や国民の平和を放ったらかして俺の元に帰ってきてたら、間違いなく俺この家出ていってるぜ?」
    「!」
    「寂しさが全くないわけじゃねぇよ?」
    「っ、うん」
    「でもな」
    「うん」
    「それ以上に俺、公安警察として、エースとしてバリバリ仕事こなしてる降谷零が大好きなんだ」
    「っ!」
    「だからさ、零さん」
    「……?」
    「これからもずっと、俺を夢中にさせてくれよ。ありのままを生きるアンタの背中、ひたむきな横顔、曲げられない信念で俺を惚れさせ続けてくれよ」
    「ーっはぁぁぁぁ……叶わないな、本当に。最高の恋人だよ、君は」
     新一の海よりも深い包容力と愛情に溺れ、そっと覆い被さった降谷の顔に、もう悄然とした影は微塵もない。いつもの精悍とした男前な表情で恋人の唇をそっと奪うと、そっと吐息に混ぜて囁いた。
    「A Happy New Year。今年も、来年も、再来年も、末長くよろしくね」
    「こちらこそ。…………こーら。姫はじめは一回寝てからな?」
     良からぬ動きを見せる右手を叩き落とされながらピシャリと言われ、仔犬のような目をして懇願してみたが、あえなく撃沈した。
    「三徹明けみたいな顔して姫はじめされても嬉しくねぇの。いっぺんぐっすり俺と寝て、起きたら思う存分付き合ってやっから。な?」
    「……っはぁぁぁぁぁぁ。無理。勝てない。可愛い。カッコイイ。誰にも渡したくない」
    「ふはっ。誰にも靡かねぇよ。だって俺の彼氏、この世でイチバン格好良い男だからな」
     衒いもなくそう言ってのける新一に、骨の髄までメロメロにされた降谷は、もう一度だけくちづけを楽しんでから、しっかり手を繋いで目を閉じた。ふたりでまた、新しい年を重ねるために。



           A Happy New Year!
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤💖❤🙏🙏😭😭💖💖💖☺💗💗❤💯☺👏👏💖💖😍💯💞💞💞☺👍💞💗💖❤👍💕💘👏👏💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works