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    pandatunamogu

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    pandatunamogu

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    ホストパロ降新(バボ新)の第9話
    バボさんが本性を表し始めたようです😌

    #降新
    dropNew
    #バボ新
    #ホストパロ
    hostParody

    Nominate you!第9話 触れ合った唇の感触が、どうしたって忘れられない。


          9.完全思考停止


     新一は現在、見事なまでに思考停止していた。
     一体何がどうしてどうなったら、自分が憧れているレジェンドホストに唇を奪われる事態に陥るのだろうか。カチンコチンに固まる新一の唇に重なっていたバーボンのそれが、ゆっくりと下唇を挟み込み、ペロリと舌先で舐めてくる。その感覚にビクッと身を跳ねさせて反射的に唇が開いてしまった。その隙を狙うようにレロリと歯列を舌先がなぞり、それからゆっくりと顔を離した。唇からバーボンの体温がなくなっても、未だ吐息が掛かるほどの至近距離にあの端麗な顔があることに変わりはなく、完全に思考停止したまま再生ボタンが一向に押されない新一は、瞬きも忘れて固まっている。
     つるりと右の頬を撫でたバーボンは、今しがた己の唇で触れた新一の下唇に親指を当て、スリ、と撫でてから仄かな笑みを浮かべた。

    「この意味、分かりませんか?」
    「意味……キ、キス……俺のファーストキス……」
    「え……。初めてだったんですか? 前々から純粋だとは思いましたが……でもすみません。君のファーストキスを奪ったことに関して、謝りたくありません」

     その意味も、もうお分かりでしょう?
     意味深な笑みに混ぜてそう問うてくる色男に、じわじわと、先程から意識していた『まさか』のパーツが組み合わさる。バチリとハマったパズルのピースが見せた絵は────……。

    「バーボンさんは……俺のことが好き、なんですか……?」
    「…………ええ。一目惚れです」

     少し影のある笑い方をするのは、どうやらこの男の癖らしい。僅かに目を伏せることで睫毛が頬に影を作り、より一層深みを与える。実に自分の見せ方を知っている男だと、手練であれば思うところだが、生憎新一はそこまで色恋に慣れてはいない。

    「だからこそ二つ目の忠告を」
    「ふたつめ……」

     何だかまだ現実や真実を受け入れきれていないらしく、ぼんやりとしながら憧れのレジェンドの言葉を雄武返した。

    「この先、たとえどんなに魅力的な人間と出会っても、決してこのように無防備な姿を晒さないようにしてください。純粋で人に垣根を作らないのは君の長所でもありますが、見ていてとても危うい。特にこのような商売では尚更。客もキャストも一癖も二癖もある者がほとんどのこの世界で、ここまで無防備だと何をされるか分からない。今みたいに、ね」
    「ーっ。なら今のは警鐘を鳴らす為に──」
    「いえ。今のは純然たる下心です」
    「じ、純然たる下心というパワーワード……!」
    「何に感心しても結構ですが、僕の……否、“俺”の恋心まで演技にされるのは心外だ」
    「お、俺!? あ、明らかに口調違いませんかバーボンさん!?」
    「Romeoのバーボンは常に上品で粗野を微塵も感じさせない敬語使いだからな。アレはあくまでも『Romeoのナンバーワン、バーボン』を演じているだけだ。家でくらい……惚れた相手の前でぐらい、仮面を脱いだって構わないだろう?」
    「か、仮面?」
    「まさか『バーボン』が本名だとでも?」

     ドサリと。今までとはガラリと雰囲気を変えて粗野と言うよりは男らしくソファに沈み込む男は、明らかに今しがたまでここにいて、あまつさえ新一のファーストキスを奪い去ったバーボンとは違った。

    「そりゃ、源氏名だってことは分かってますけど」
    「名前だけを変えていると? 名前はいわばスイッチだ。名前が変わればスイッチも切り替わり、人格も仮面も変わる。まだ俺の本名も職業も明かせないが、もう隠しようがないぐらい惚れちまったもんは仕方ない。本気で君を落としに行くにはいつまでも偽りの仮面なんざ被ってられないんでな」

     落としに行くの単語にドキリとして思わず隣の、やけに男っぷりを増したバーボンを振り返れば、なんとも悪い顔でニ、と笑っている。ただそれは、からかいを含んだような笑いではない。妙にその端々にギラついたオスの色香を燻らせて、これみよがしに漂わせてくる。

    「ほ、本気ですか? バーボンさんが俺に惚れ……って」
    「生憎こんなにタチの悪い冗談を嘯くタイプの人間じゃないんでな。本気だよ」
    「ーっ。バーボンさんは、その……、っ」
    「言っておくがゲイでもないぞ」
    「〜っ。じゃあ何で俺のこと……」
    「さあ。寧ろ俺が聞きたい」

     開き直ったように肩を竦ませて見せるその仕草すら、役者じみていてドキリとする。恐らく偽りの仮面ではなく本性のこの男っぷりがムンムンとしたままでも、充分レジェンドになれただろうと新一は謎の確信を持っていた。
     暢気にひとり考えに耽っていると、不意に頭を撫でくられた。たちまちにもしゃもしゃになる頭にも構っていられないほど、その手つきは徐々に妖しさを持ち始める。まるで地肌を愛撫するかのように頭皮に触れてくる五本の指に、ゾクゾクと背筋に何かが走り、慌ててその手から逃れて距離を取ると、「悪い。チェリーだったな」と言われてカッと羞恥で頬が染まる。

    「人に惚れるのに理由なんかないだろう。俺の場合も同じだ。理由なんかない。説明なんかできない。君を見た瞬間、この子を逃したら生涯後悔すると確信したんだ」
    「っ!!!」

     童貞で恋愛経験も乏しい新一には、いささか彼の言動も行動も強烈すぎた。脳内をグルングルンと無限のメリーゴーランドで回している新一の右手を握ると、「とにかく」と男は話を強引に戻した。

    「誰にでも隙を見せるな。演じる上での『隙』は構わないが、天然の隙が君は多すぎる。これから本格的に調査に加わってもらう『Sweet death』はセックスドラッグだ。まあ今ならデートドラッグとも言うか。タチが悪いことに中毒性まである。ホストの中にはゲイも多い。薬を盛られるのが客である女だと同じキャストをノーマークにしてるとまんまと薬を盛られて掘られるぞ」
    「うっ」
    「その尻は俺が狙うんだから大事に取っておけ」
    「尻!? 尻狙われてるんですか俺!? バーボンさんに!?」
    「惚れたって言っただろう」
    「だっ、で、でも……っ! ……って俺が下なんですか!?」
    「むしろ俺が君に対して掘られ願望があるとでも思ったのか?」
    「え、いや……それは分かりませんけど」
    「…………で?」

     ちら、と。妙に色気に濡れた流し目をこちらに向けてくるバーボンに、いちいち鼓動が跳ねるこの現象の名前を新一は本気で知りたかった。

    「で、とは?」
    「君にとって俺は『アリ』か、それとも『ナシ』か」
    「え……っ」
    「言っておくが『憧れの意味でのアリ』なんて言う答えは要らないからな。現時点での君の率直な感想を聞きたい」
    「うぐっ」

     見事に手を封じられた新一は言葉に詰まる。
     チラチラとやたら顔のいい横顔を盗み見て、ふむ……と考え込む。

    「率直な感想は…………よく、分かりません」
    「分からない?」

     背もたれに悠々と両手を伸ばしてソファに沈みながら視線を新一に向けて聞き返してくるバーボンに、何だか申し訳ない気分にさせられながらコクンと首肯する。

    「俺はずっと、バーボンさんに憧れてこの業界に入って。語り継がれてるバーボンさんの伝説だけじゃなく、生のバーボンさんの魅力に更に圧倒されて尊敬とか敬愛とか憧憬とかそういう気持ちがドカドカデカくなっていって、『ああ好きだな、こうなりてぇな』っていつも思ってるんですけど……それがその……」
    「性愛に繋がる感情かどうか分からない、と」
    「う……っ」

     凡そ予想はしていたのだろう。然してショックも受けずに受け入れているバーボンに、「あ、でも!」と新一が体ごと向き直って続けた。

    「何でか最近、不整脈起きたり心臓がやたら痛くなったりするんですよね。だから多分心臓のどっかが悪いんだと思うんで、次のオフの日にでも病院で診て貰おうかと思ってるんですけど……。それが決まって、バーボンさん関連なので……」
    「俺関係? 例えば?」

     ピク、と僅かに繭山が動き、詳細を問えば、ええと……と右斜め上に視線をやって思い出す仕草を見せながら新一は答える。

    「例えばさっきみたいに距離感バグってる時は不整脈が起こってなかなか治まらないですし、バーボンさんが姫の腰を抱いたり髪先指先にキスしたりサービスしたりしてるの見るとこう……何つぅか心臓がビリビリ痛ぇっつーか苦しいっつうか」
    「…………それ、わざと言ってる? それとも真剣に悩んでる? どっち?」
    「もちろん真剣ですよ。明日はさすがに俺もゆっくりしたいんで、次のオフの日に予約取ってこようかと……」
    「行かなくていいから病院。原因ならわかってるから」
    「はへ?」
    「何だその気の抜ける声は。……それ、完全に俺に恋してるだろ」
    「は!? っいやいやいやいやいやっ!」
    「……そんなに否定するか? さすがに傷つくぞ」
    「あっいや! そうじゃなくて……っ! だって恋って……っ恋って……っ」
    「こんな風に顔近づけると不整脈が起きて……」

     そう言うなり今にも再び唇を食われそうな程に距離を詰められグッと息を飲んで仰け反る新一に不敵に笑い、スッと身を戻してさらに続ける。

    「客の髪先や指先にキスしているシーンに出くわす度、此処が痛むんだろう?」

     トントン、と長い人差し指で新一の心臓あたりをノックされ、素直にコクンと頷くと、確信した顔で「決まりだろ」と自信満々に言われた。そうバーボンに断言されても、いまいち実感できずに惚けている新一をチラリと横目に一瞥した男はすぐに視線を顔ごと正面に戻し、「まあ……」と口にする。

    「俺がいくら確信したところで君が実感しない事にはどうにもならないし、芽生えてるものは確実にソレだと思うがまだほんの小さい芽吹きだろうしな。本人に宣言も済ませたし、これからは遠慮なく迫るからそのつもりで」
    「え、えええ」
    「嫌じゃないんだろう? 嫌なら自重するが」
    「い、嫌では無いですけど……っ。そ、その……どうすりゃいいか分かんないと言うかテンパる未来しか見えねぇっていうか……」
    「それなら問題ないな」
    「大アリですよ!!」

     何たって相手はこの日本一と謳われる歓楽街・歌舞伎町のレジェンドホストなのだ。そんな男に本気を出されてグイグイ攻めてこられたら、恋愛偏差値が地底にめり込んでしまっている新一など一瞬にしてコロリだ。即落ち二コマなんてもんじゃない。即落ち0・1コマだ。漫画のネタにすらなりゃしない。だが、当然そんな理由で自重してくれるはずもないレジェンドは、「ああ、それとも……」とそこで突然口調と表情を変えた。そう。馴染みがあり過ぎるいつものバーボンのソレだ。

    「ヒカルくんはこちらの方がお好みですか?」
    「そ、そういう事じゃありません!!」

     いつもの妖しく品の漂うバーボンスマイルで覆い被さってきた男前の顎を必死に押し戻しながら、何がどうなったらこんな展開になるんだと新一は頭を抱えたくなった。
     いや、嫌では無いのだ。
     嫌ではないからタチが悪いのだ。
     もしも本気で嫌な相手から迫られているのなら、「俺にそんな気はないから諦めてくれ」とピシャリと言い放って拒んでしまえばいい。簡単な話だ。
     だが、相手がバーボンとなると、話は途端に変わってくる。グイグイ顔を寄せられても、何ならさっきの交唇も、嫌などではなく寧ろ先程から唇の感触を無限リプレイしてはぽっぽと顔を赤らめてしまうほど────好感触だった。だからこそ、タチが悪いのだ。
     クツクツとさんざん可笑しそうに喉奥で笑ったあと、バーボンは「とにかくそういう訳なので」と締めに取り掛かった。

    「これからはそういうつもりで行くので宜しく。あと、俺以外に天然の隙は一切見せないこと。客にワザと隙を演じて仕掛けても、ちゃんと相手の動向は窺って警戒しておくこと。無闇に体を寄せてくるキャストとは距離をとり、速やかに俺に報告すること。以上」
    「え、あ、え、は、はい」

     なんだか無理くり押し切られた感が満載だったが、もうそれ以上問答を続けても返ってくる答えは同じだと分かっていたため、新一は言いたいことを飲み込んで、気圧される形で了承した。

     翌日のオフ日は、昼過ぎに何やら食欲を唆る匂いに唆されて目を覚ませば、何故か至近距離に国宝級イケメンのドアップが迫っていて、危うく心臓発作で永眠するところだった。

    「うをわっ!」
    「おはよう」
    「お、おはようございます! ってか何でここに……っ」
    「コーヒー淹れ立てだから一番美味しいのを味わってもらおうと起こしに来たらあんまりに無防備な寝顔にムラムラ来たから味見してやろうかと思ったら直前で起きられただけですが?」
    「味見しないでください!」

     冗談か本気かの判断もつかないような真顔でサラリとそんな事を口にする男前に、新一の心臓は今にも破裂寸前である。そんな初心な反応に気を良くしたのかクツクツと目を細めて笑い、「それはザンネン。さあ、裸にひん剥かれるのが嫌なら早く着替えてダイニングに来てくださいね。ブランチしましょう」と笑顔で不穏なことを言いながら体を起こし、寝室から出ていった。

    「〜〜〜っ……はぁぁぁぁぁぁぁ……ったく。からかってんだよな? 俺がそういうのに免疫がねぇから……ホストのくせに、って」

     一体どこまでがジョークで何処からがバーボンの本気なのかがまるで判断できないが、ひとまずすべて冗談と思うことで自分を落ち着かせ、着替えるかとベッドから降りた瞬間、ガチャリと再び扉が開いて────

    「言っておきますけど冗談なんかじゃありませんからね」

     わざわざ満面の笑みでそれだけ言うと、再びドアが閉まって今度こそダイニングに向かう足音が聞こえた。

    「き、聞いてたのかよ!!」

     新一のその大声にクツクツと可笑しそうに笑ってキッチンに戻ってきたバーボンはしかし、すぐに視線を彼の寝室にあてがった部屋の方に向け、少し切なげに歪んだものを端麗なかんばせに浮かべる。

    「こうでもしないと意識すらされないんだから、こっちだって必死なんだよ」

     らしくない弱音の混じったその声は、何とも切実に響いて空気に溶けた。



               続
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