散々な日俺は今日すこぶる調子が悪かった。
朝から犬に追いかけられ、打ち水の水を全身にかけられ、人にぶつかられて側溝に足がはまり、その勢いでバランスを崩して石垣に肩を強打。
そして今は道のど真ん中で盛大にすっ転んでしまっている。
通り過ぎていく人達にちらちらと視線を向けられ、いたたまれない気分になる。あぁ、やっぱり大人しく家に帰っておけば良かった。
痛みやら情けなさやらで泣きそうになっていると、目の前から「大丈夫か?」と手を差し出される。顔を上げると、そこには赤毛の外国人っぽい顔立ちをした背の高い男の人がいた。
「あ、いや、すんません、大丈夫です!」
こんな所を見られたという恥ずかしさで慌てて立ち上がろうとする。が、足をもつれさせてつんのめってしまい、手を差し出してくれた人に思いきり寄りかかる、というか受け止められてしまった。本当に何やってんだ俺は。
「っと、大丈夫か?」
「いや…ホント…すんません…」
「別に気にすんな……あ、ヒジ血ぃ出とるぞ」
「へ。あぁ、ホントだ」
ちょっと待ってろと言われて近くにあったベンチに座らされる。そして赤毛のその人は持っていたカバンをがさごそと探り、お目当ての物が見付かったらしくそれをこちらに差し出してきた。
「ほれ、絆創膏。こんなやつしか無くてわりぃな」
「あっ、はい」
恐竜柄だ。なんて思っていると「じゃあな、足元きぃつけろよ!」とその人は足早に去って行ってしまった。
…お礼、言い損ねたな。
ただ助け起こしてもらって、絆創膏を貰っただけ。それだけのことだったけど、今の俺にはそれがひどく染みていた。
ーーーーーーーーーー
その後も俺の身には色々な災難が降りかかったが、何とか用事を終わらせ帰路に着くことが出来ていた。
あの絆創膏がお守り代わりにでもなってくれたんだろうか。
傍から見れば大分気色悪いであろうニマニマした笑顔を浮かべていると、突然その時は訪れた。
昼間会ったあの人がいたのだ。
そして俺は咄嗟に物陰に身を隠してしまった。
お礼を言いたいし、あわよくばちょっと話したい気持ちはあるけど流石に迷惑じゃないか?こんな所でいきなり声を掛けて、怪しいやつだなんて思われるのは嫌だし。
そうやって足を踏み出せずにまごまごしていると、通りの向こうから誰かが歩いてきた。
明かりが少ないからよく見えないけどガタイがいい。あの人までとはいかないが背が高く、筋肉質の男だ。
「ゴメンゴメン、仕事長引いた」
「いや、別に構わねぇよ」
少し間を置いてから相手の男が近づく。やけに距離が近い気がするが、そんなに仲が良いんだろうか。
「というかさ。家帰れば会えるのに、そんな早く会いたかった?」
「言うとけ、たまたまこっちに用事あっただけじゃ」
相手の男がふーんと言った直後、突然あの人に顔を近付ける、というかいくらなんでも近すぎ……。
「っば、馬鹿かきさんは!なに外で盛っとんじゃ!」
「えー、お詫びのつもりだったんだけど。こういうことになってもいいように、人気の無い場所選んでくれたんじゃないの?」
「んなワケねえやろ馬鹿か!」
「それにさ」
そこから先は全く耳に入らなかった。
さっきキスしてたよな、完全にしてた。なんで?なんでだ??
目の前で起きた事を租借しようとするが、どうにも頭が回らない。そうやってうだうだと考えている内、二人は手を繋ぎここから歩き去って行ってしまった。その手はしっかりと絡められ、まるで恋人繋ぎのようで…
……恋人?そっか、恋人か…恋人…。家帰ったらとか言ってたもんな…。いやなんかお礼とか言ってあわよくば連絡先交換して、ワンチャンとか別に全然思ってなかったけど、恋人………。
俺はそのあと夜通し枕を濡らした。やっぱり今日は散々じゃねえか!!