車のキーを手に取り、エンジンをかける。
そして駐車場から車を発進させた。
道中、車内では音楽をかけた。
よく聴くアーティストのアルバムで、ドライブデートといえばこの曲だろうと直感的に思った。
待ち合わせ場所に着くと、堅作は携帯を片手に辺りをキョロキョロと窺っていた。
そして、俺の姿を見つけるなり嬉しそうに手を振る。
その仕草が妙に可愛く見えて、思わず顔が綻ぶ。
「待ったか?」
「や、今来たとこだ」
なんてやり取りが、ベタな恋人みたいで何となく照れてしまう。
堅作も同じように感じたようで、お互い恥ずかしくなって、しばらく無言のまま立ち尽くしていた。
先に沈黙を破ったのは俺だった。
「……ぃよし、じゃ行くか」
「うん」
堅作の返事を聞いた後、俺は助手席のドアを開け、中に入るように促す。
そして自分も運転席に乗り込み、シートベルトを締める。
堅作は乗り込むなり、車内を見回してため息をひとつつく。
堅作は俺が免許を取った頃からよく車に乗せているから、今更何ということはないはずなんだが。
「何か珍しいもんでもあったか?」
「ん?あー、いや……」
訊ねてみると、歯切れの悪い返答。
不思議に思って横目で堅作を見ると、耳がほんのりと赤くなっていた。
「なんかよ……立場が変わると、助手席に座るのって変な気分だなーって……」
と漏らす堅作。
その言葉を聞いて、俺の顔も熱くなるのを感じた。
今まではメンバーもいたし、2人で乗ることはあっても、それはダチとしてだった。
今、堅作は、俺の恋人としてここにいる。
それが実感できて、柄にもなく舞い上がってしまう。
しかし俺は平静を装う。
こういうのは俺の方からリードしなきゃいけねぇし。
俺はアクセルを踏み込み、車を加速させた。
「……で、結局どこ行くんだっけ?」
しばらく走ったのち、俺の左隣で窓からの風を受けながら、堅作が問う。
俺は運転しながらどうしような、と答える。
ちなみに結局行き先は特には決めていなかった。
それならとにかくベタなことをして楽しみたいと、堅作は言った。
でもそれだけだと漠然としてわかりにくいので、俺は堅作にどんなことをしたいのか詳しく聞いてみる。
話し合い幾つか出てきた候補の中から、今回はお台場に行こうということになった。
本当になんつーベタなスポットだ。
まあこいつが行きたいというならそれでいいし、地元からは離れてる。
なら少しくらいハメ外しても問題ねえよな?
そう思いながら、俺はハンドルを切る。
運転中、左頬に視線を感じて横目で見ると、堅作がじっとこちらを見ていた。
お台場も近くなり窓の外には絶景が広がっているというのに、堅作はそっちには目もくれず俺の顔から視線を外さない。
「景色とか見なくていいのか?」
と俺が問うと、堅作はとんでもない事をぬかしやがった。
「運転してる乱人、かっけーなって思って」
一瞬思考停止に陥りかけた。
それからじわじわと胸の奥から沸き上がるものを感じる。
それはとても熱いもので、身体中に巡っていく。
ヤバい。なんて可愛いことを言うんだこいつは。
不意打ちすぎるぞバカ野郎!あーもう!
俺はハンドルを握る手に力を込める。
隣からはへへっと悪戯っぽく笑う声が聞こえる。
俺は赤くなった顔を見られたくなくて、堅作から顔を背けるようにして前を向いた。
「……そんなんいーから外でも見てろ、絶景だからよ」
「ほんとだ、すげぇ!あ、あそこ!」
堅作が指差した先には大きな観覧車が見えた。あの周辺が目的地だ。
ガキみたいにはしゃぎやがって、全く。
だがそんな堅作が可愛いと思ってしまうのだから、俺も末期だ。
まあ今日はとことん付き合ってやるつもりだけどな。