声で伝えて 最近なんだか息苦しい。
朝から晩まで動き回って疲れが溜まっているせいだろうか。
先ほどまで開かれていた宴の片付けをしながらジャミルは考えていた。
ようやく終わりが見えてきた頃に寮生から声をかけられた。
「あ、副寮長。寮長が呼んでいましたよ。あとはやっておきますんで行ってください。」
「あぁ、ありがとう。それじゃあお願いするよ。」
最後の片付けを寮生に任せ、ジャミルはカリムの部屋へと向かった。
なんだ、何かあったのか…?
息苦しさが少し増す。
「ジャミル、Come。おいで。」
部屋の扉を開けたところでそう言われ、ジャミルは一瞬動きを止めた。
声は優しいはずなのにどこか強い波長を含んでいた。
ジャミルはピリッとした空気を感じたが、抗えないその声に誘われベッドに腰掛けているカリムの前へと足を運んだ。
怒っている…のか?なんだかいつもより強い気がするんだが…。
額に汗をかきながら、カリムの次の言葉を待った。
「…ジャミル、Look。オレの目をみて。」
さっきより強い言葉でジャミルの意識を支配する。
ジャミルは今日1日の自分を振り返っていた。
何か変なことをしただろうか?
いつも通り授業の準備、お昼、帰ってからは宴の準備。何一つ悪いことはしていないはず…だが。
頭をぐるぐる回し何か自分は怒られるようなことをしてしまっただろうかと考える。
自分で気づかない内にカリムの機嫌を損ねることをしてしまったのか…?
宴をもっと豪華にしたほうがよかったか…?
次第に呼吸が浅くなり、目頭が熱くなる。
その様子に気付いたカリムは慌てて自分が言おうとしていた言葉を置いた。
「え、あ、ジャミル?!どうしたんだ、大丈夫か!?」
手を伸ばし、ジャミルの頬を伝う涙を拭った。
ジャミルの顔に伸ばした手をそのまま頭の後ろに回してカリムは言葉を続けた。
「あ〜、もうジャミル。やっぱり限界だったんだなぁ。
ごめんな、もっと早く気がつけばよかったよ。」
ジャミルの頭を優しく撫でながら、次第にその腕の中に包み込んでいった。
はらはらと溢れる涙はまだ止まりそうにない。
「よしよし、いい子だジャミル。いっぱい泣いていいぞ。
平気そうにしてたからオレ全然気づいてなかったんだけど前のPlayから時間が空いてたんだよなぁ。
ごめんな、ジャミル。こんなになるまで我慢できて偉かったなGoodだ。」
先ほどとは違って優しさの滲む声色にジャミルは呼吸を整えていく。
「今日はジャミルが嫌だって言ってもいっぱい褒めてやりたくてさ、さっきはちょっと強い言い方になっちまったかな、オレ。」
「……無理矢理じゃ意味がないだろうが、バカ。」
そう言って抱きしめられているカリムの腕から顔を離す。
「ホントだよな。ごめんなジャミル。改めて…Look、オレの目を見て言ってジャミル。オレに何をして欲しい?」
ジャミルは視線をその吸い込まれそうな赤い瞳に合わせて、ポツリポツリと言った。
「…もっと、いっぱい褒めて。頭、なでて欲しい…。」
顔を赤くしながら意志を表すジャミルをカリムは優しく強く抱きしめた。
「Good Boy. よく言えたな、ジャミル。いい子だ。」
「ん…。」
優しい声。自分だけを見て褒めてくれるその瞳。温かい腕の中の心地よさでジャミルはそっと目を閉じた。
そして、すぅっと息を吸い込むとそのまま寝息を立て始めてしまった。
「……ジャミルゥ、寝ちゃったのかぁ〜。」
少し残念という声を出してカリムはそっとジャミルを横に寝かせ、その唇に自分の唇を重ねた。
「おやすみ、ジャミル。今日も一日頑張ったな。」
翌日、ジャミルは清々しい気分で目が覚めた。
ここ最近の疲れが完全に嘘のようだった。
隣に目をやるとカリムはまだ眠ったままだ。
起こさないようにそっとベッドから足を下ろしたところで後ろから腕をぐっと掴まれた。
「!?起きてたのか?カリム。」
「ん、今おきた。おはようジャミル。今日は調子よさそうだな。」
「…あぁ、もう大丈夫だ。」
昨日すぐに寝てしまったことを少し気まずく思ったジャミルはカリムと目が合わせられなかった。
「ならよかった!」
カリムは腕を掴んでいた手をそのままスーッと上に這わせ喉元まで持っていき、自分の顔をジャミルの耳の近くまで持っていった。
「ならさ…、今夜はちゃんとPlay…できるよな…ジャミル?」
普段より低くあまいその声にジャミルの体は一瞬で体温の上昇を覚えた。
うまく言葉が出てこない様子で小さい頷きで返事を返す。
それを見てカリムは満足そうに微笑んだ。
朝はまだ始まったばかりだ。