With you... 濃紺の空に朧月が上るころ、多くの生者は眠りに就き、人ならざる者たちにとっての夜明けが訪れる。
目覚めた吸血鬼は庭に出ると、手ずから育てている薔薇を摘み取り、その芳香で朝食を済ませた。
何一つ口にしてはいないのに、不思議と飢餓感は和らぐ。
主食には遠く及ばないが、容易く理性を失うほどの衝動が抑えられさえすれば良い。
さらに数本摘んで城内に戻り、月明かりが差し込む柱廊を進む。
城主が日頃の食事をする小食堂は、客人を招く大食堂に比べると狭く装飾も最低限だが、だからこそ落ち着ける空間だ。薔薇を育てている中庭に繋がる厨房からも近いので、移動距離も短くて助かる。
久しく客人とは無縁だったこの城に変わり者な青年が通うようになってからは、運んでいる間にスープが冷める心配もないという利点も増えた。
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