少年時代どでみ そのダスカー人を、私の所領に連れていきましょうか。そう提案した貴族がいた。それは残念なことに、珍しくも純粋な厚意だった。西南端にある彼の所領のほうが、王都よりは、ドゥドゥーは生きやすいだろう。その貴族はドゥドゥーに同情的だった。仕事と住処くらいは準備してくれる気もあったろう。
だがディミトリは断った。どうして。そのダスカー人でなければできない仕事など、ありますまい。そう言われたとき、とっさに、「ドゥドゥーはハーブティーをいれるのが上手だ。一番上手だ」と、声変わりも済んでいない声で反論した。貴族はそれ以上、何も言わなかった。
二人きりになったあと、ディミトリはドゥドゥーに謝った。違う。そんなことをさせるために、いてもらうわけじゃない。
「あれは口実なんだ」
そばにいてほしいから。絞り出すような声で許しを請うと、ドゥドゥーは不自由な言葉よりよほど伝わりやすい形で承諾した。ディミトリの手を握ったのだ。分厚く、あたたかな手だった。