狂い咲く花は風を乱吹く8「ど、どうして…助けた…」
パンダヴァを王国から追放し、その苦しむ姿を見て楽しもうと、友たちと共に牧場視察をしに森に入ったドゥリーヨダナ達。しかしそこは半神ガンダルヴァの縄張であり、その縄張を荒らした自分達に攻撃しにきた。最強の半神ガンダルヴァに敵わなず、カルナを含む全軍は撤退し、ドウリーヨダナは彼等に捕まってしまった。
ああ、もうこれは駄目だ。
こんな所で自分は死ぬのか、あーあ。
と何もかも諦めていた所に、まさかの宿敵、ビーマがドゥリーヨダナの窮地に駆けつけたのだ。
「なぜ、お前がここにいる…?」
敵を薙ぎ倒し、自分を救いに来たビーマはまさに幼き頃に読んだ書物に出てくる英雄そのものだった。
幼い頃はあんなに力のコントロールができなく、壊すだけだった男が、年月をかけてこんなに頼もしく…かっこいい男になるなんて
「あん?兄貴に言われたんだよ。お前を助けろって」
とても嫌そうな顔をビーマは見せた。
その表情を見て、自分の奥深くに眠っている何かがズキリと痛み出した。
それからビーマに抱えられて、友たちの元へと帰る。
その時にドゥリーヨダナは気づいてはいけない「想い」に気がついてしまった。
「……」
しかしその想いは決して口に出してはいけない、気がつかれてはいけない。
幸い、ビーマは暫く宮殿には帰らない。
その間にこの想いは捨てよう。
……
捨てられなかった。
どんなに手放そうとしても、それは叶わなかった。
叶わなかったのだった。
>>>>>>
「…う」
暗闇。謎の液体の中に自分はいた。しかし何故か息はできてる。
「な、なんなのだーーーーこれは!!!」
ゴボゴボと空気口から溢れ出て液体の中に響いた。
くすくす、おかえりなさい。
スヨーダナ。
「?!」
女とも男とも解らない声。子供とも老人とも解らない声。
嗚呼、やっと戻ってきた。これで作り直せる。
スヨーダナ、嗚呼、私達のスヨーダナ。
さぁ、これから素晴らしい道具になるのだ。
そして世界を、全ての世界を破壊しておくれ、
そうすれば私達の新しい世界は創造できるのだ。
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「ビーマ!」
「マスター!無事か!」
父神の力を使ってビーマはマスターの元に速く駆けつける事ができた。
「ビーマ!大変だ、ドゥリーヨダナが」
「あー、話はダ・ヴィンチ嬢から聞いてる。アイツは大丈夫だろ、どっちかというとシャクニはアイツの味方だからな」
早く話のトピックを変えるようにビーマは適当に遇らう。
しかし藤丸立香はそれを許さなかった。
「生前はそうだったかもしれないけども、今はそのシャクニって人は敵だよ?!ドゥリーヨダナが心配だ、早く助けに行こう?」
「どうして」
ビーマの言葉にマスターは目を見開く。
「何でアイツを助けるんだ?別に良いだろう、あんな奴…それにサーヴァントだぜ?」
「…ビーマ?」
「別にアイツがここで退去してもカルデアに再召喚されるんだろ?だったら別にいいじゃねぇか」
「………」
藤丸は俯いた。その反応を見て、誰にも優しいマスターには少し言い過ぎだったかとビーマは後悔する。
「…解った。ドゥリーヨダナの救出は私とヴリコーダラでやるよ。ビーマはここで待機していて」
「マスター…!」
「ダ・ヴィンチちゃん、ヴリコーダラとは連絡取れる?」
マスターがもう一人の自分に頼る所を見て、ビーマは口を閉じた。
『それがさっきから連絡が取れなくてね。いつもの通信妨害だと思う』
「もーこんな時に…!ふー解った、私からヴリコーダラの所へ行く!」
『無茶言わないでよー!駄目だよ、というかここでこそ令呪を使わないのかい?」
「ヴリコーダラは…ずっと探していたもの。やっと会えたんだもの。だから…本当は邪魔はしたくない」
唯の幻影だというのに、サーヴァントの願いと信念を尊重するマスター、藤丸立香のこういう魅力を数多のサーヴァント達好きだった。
もちろんビーマもだ。しかし
「………………………………(俺だって、スヨーダナに会いたいよ)」
思わず口に出してしまった言葉にビーマは思わず口を塞ぐ。幸い、マスター達の耳には届かなかったようだ。その事に小さく安堵すると、ビーマは「いつも通り」の振る舞いをした。
「解ったよ。今は仲間だからな。仕方ねぇが、ドゥリーヨダナを救出しよう」
「ビーマ!ありがとう!」
マスターは嬉しそうに笑う。
『でもドゥリーヨダナが今どこにいるか、手がかりは…』
「ああ、そうだな。でも、もし此処が俺の知る「クル国」であるのならば。
ハスティナープラにいると思うぜ」