「これが新しい品種で作ってみた果実酒。この雨季に漬けたばかりだからまだ熟成が足りないけどこれはこれでさっぱりしてて良いな。こっちは海の木の実。綺麗な波の色だろう? 少し甘過ぎるかもしれないが癖の強い蒸留酒を割って飲むとなかなか美味いんだ」
前触れもなく城を訪れたフィガロが次々と取り出す南の国の土産物をオズは眉ひとつ動かさずに眺めていた。北の国の風景そのものをアミュレットとして持ち歩くほどフィガロが生まれ故郷の北の地を離れることは多く、さまざまな土地を一時的な住処として渡り歩いてきた男だった。
この男が南の国を開拓に手を貸し始めてからは夏の暑さに耐え兼ねて、と城を訪うことが増えた。何かの実験でもしているのか、自然豊かな沼地で栽培した果物や魚、酒を携えてふらりと訪れる。毎年決まってということもない。双子たちが住む氷の街に寄ることもあったのだろう。雪積もる景色を眺めては『北の国に帰ってきた』と感慨深く吐き出した声に乗った鮮やかな喜色をよく覚えていた。
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