クロムはエクスと一緒に電車に乗っていた。
4人掛けのボックス席に向かい合って座っている。乗客は他に誰もいない。
電車は海辺を走っていた。
窓の外を見れば、澄み渡る青空と透き通るほど美しい海に太陽の光が反射して輝いている。
エクスは窓の外の景色を嬉しそうに眺めていた。
クロムはそんなエクスの様子を見て穏やかに微笑んでいた。
クロムの左手には手錠が付いていて、反対側はエクスの右手に取り付けられていた。
「ねぇ、クロム。海も空も同じ色だから境が分からなくて、もしかしたら魚が空で泳いでるかも知れないよ」
エクスが楽しそうに話をし身体を動かす度に、手錠の鎖が揺れてカチャカチャと音がした。
「相変わらずエクスは面白いことを言うな…」
クロムはエクスの頭をそっと撫でた。
エクスの柔らかいフワリとした髪の感触が心地よかった。
エクスもクロムに撫でられてご機嫌だった。
「海や空…何の境もない自由な世界…ボクたちもいつか泳いでみたいね」
エクスは無邪気に笑いながら言った。
その笑顔は空や海よりも眩しく輝いていた。
「そうだな…それは楽しそうだ…」
クロムはエクスをそっと抱き締めた。
この時間がずっと続けば良い…。そう思いなが手錠で繋がれたお互いの手首を確認し、そっと目を閉じた。
目が覚めるとエクスはいなかった。
外は夜になっていて手錠も無くなっていた。
クロムの手には手錠の代わりに仮面Yのヘルメットがあった。
電車は相変わらず走っているが、外が暗くてどこを走っているのかは分からなかった。
暗くて何も見えないがクロムは窓の外を見ていた。
暗闇もまた空と海の境は分からない。
エクスと共に見た海や空のように美しく輝いてはいない。
それでも泳ぐことは出来そうだとクロムは思った。
「エクス……たとえ暗闇でも自由に泳げるのなら、オレはそれで構わない…」