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    水無月

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    水無月

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    まだVRAINS見終わってなくて…。しかもハノイの塔の影響がどんなだったかもちょっとうろ覚えで…。それなのに書いてしまった私を許してください。罪人は妄想を積み重ねた私です。

    積み重ねた罪人たち 「いくら了見様のお言葉でも―それに従うことは出来ません。」
     外の天気とは正反対の、どこまでも澄み渡った高い空のような、迷いのない真っ直ぐな瞳。その瞳に映る自分は、今どのような顔をしているのだろう。
     「…お前は何もわかっていない…。」
     絞りだした声は、自分でもわかるほどに掠れていた。
     「ハノイの塔の完成が何を意味するのか…混乱に陥った世界が、我々ハノイを如何に憎み、断罪し、追放するか。そのような事態に、むざむざお前を巻き込めと言うのか。」
     「ならば尚更です。了見様お一人に背負わせるわけには参りません。」
     「三騎士がいる。」
     「三騎士は良くて私は駄目だと?私とて実力では彼らに劣らぬつもりですが。」
     ご存知でしょう、私の教育を彼らに命じたのは、他ならぬ了見様ではないですか。
     ああ言えばこう言う。この従者がどれほど弁が立つかは知っていたが、まさか我が身でそれを思い知ることになるとは。
     了見はため息をついた。普段聞き分けの良い腹心の部下は、一歩も引かぬという決意をその蒼天の瞳に秘めてこちらを見つめている。常ならば鬱屈した思いを穏やかに宥めてくれるその天穹の色が、今は自分を追い詰めているように感じられた。曇天が、屋敷の外だけでなく心の内にまで広がっていく。

     スペクターは自分を神聖視し過ぎている。自分は、純粋な彼を道連れに出来るような人間ではない。そんな資格は持っていないのだ。最初から。

     「…三騎士は、ロスト事件に関わっていた。」
     ぴくりと、スペクターの整えられた眉が動いたような気がした。
     「あれは裁かれるべき犯罪だった。そして私はロスト事件首謀者の…鴻上聖の息子、鴻上了見だ。父はもはや罪を償えるような状態ではない。ならば私がその罪を背負うのは当然だろう。イグニスを生み出した罪を償い、そのために未曾有のサイバーテロを起こす罪を背負う。それらは私に科せられた業であってお前には」
     「鴻上博士の罪滅ぼしですか。」
     僅かな、だが確かな嘲笑の気配を感じ取って、了見ははっと顔をあげた。

     スペクターの口元が微かに歪んでいる。

     「その鴻上博士の罪によって、私は再びこの世に生まれることが出来たのですが。」
     「スペクター?」
     「新しい名前と居場所を与えられたのですが。」
     「スペクター、」
     「私を拾ったのも、罪滅ぼしですか。」
     「スペクター、待て」
     「常に私をお側に置いてくださったのも、哀れな誘拐事件の被害者に対する罪滅ぼしだと仰るのですか。」
     「スペクター、少し落ち着いて話を」
     「わかっていないのは貴方の方だ!!」

     悲鳴のような声が空気を切り裂いた。思わず息を呑む。この、部下の鑑のような従順な青年が自分に対して声を荒げる事など、今まで一度もなかったことだ。

     「…スペクター………」
     呼びかけに応えるように、ゆっくりと空がこちらを向く。虚ろな色。その虚無に映る自分は、今どのような顔をしているのだろう。

     雨が窓を叩き始める。
     静かに、控え目に。
     雨が降る。


     「鴻上博士の罪があったから、私は貴方にお会いすることが出来たんです。」
     「こんな私でも、貴方のお役に立つことが、出来ると思えたんです…っ」
     「実の親にも捨てられた私が…っ 唯一無二の存在を奪われた私…が…っ もう一度大切なものをこの胸に抱くことが出来たんです……っ」

     雨が降る。
     窓の外と窓の内に。

     了見の前の小さな空に、雨が降る。

     「お願いです………」
     零れた声は、雨に濡れて凍えていた。
     
     「私の幸せを否定しないで……私の幸せを、了見様の罪にしないでください………」

     ―それならば私を裁いてください。了見様の罪の上に自分の幸せを築く私を裁いてください。世界が貴方の罪を裁くというのなら、私の罪は他ならぬ貴方が裁いてください―

     「…スペクター」
     糸が切れるように崩折れた従者の傍らに膝を付く。
     私はお前を守りたい。許されない罪から。世界の刃から。ハノイに向けられる憎しみから。


     …本当にそれだけか…?

     
     「……プレイメイカーが来るかもしれない。」
     来るでしょうね。呟いた声は、もう落ち着きを取り戻していた。たとえ水溜りに映る空がまだ晴れ間を見せていなくても、雨音は聞こえない。
     「私はお前を信頼している。お前の強さも信じている。だがプレイメイカーは…強い。もしお前が…お前が負けてしまったら」
     白いスーツに縋り付く腕が、自分のものだとは思えなかった。こんなにも震え、こんなにも冷たい腕が。 
     「お前の意識もデータ化される。お前もハノイの塔に取り込まれてしまう…!」
     私はお前を守りたい。プレイメイカーから。ハノイの塔から。


     「…それは素敵ですね。」
     耳朶を打ったのは意外な言葉だった。思わずスペクターの顔を見ると、彼は驚くほど美しい顔で微笑っていた。雨上がりの草木が、雨粒を纏って煌めくように。

     「私の幸せではない…。そんな抽象的なものではなくて、私自身が、了見様の罪になれるのですね。」
     

     
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