無彩の街に、花束を「カーシュって、母の日はおかあさんに何してあげるの?」
コルチャに借りた赤い船でテルミナに向かう途中で、横に並んで一緒にオールを漕いでいるセルジュが何気なく顔を覗き込んで聞いてきた。
こちらを見つめる海の色の青い大きな瞳が今日も愛らしい。
「あー…馴染みの花屋で適当に買って、それを渡すくれえだな。大概花屋のオバハンがいいやつ見繕ってくれるし、蛇骨祭の前は警備体制を整えるんで忙しいからよ」
「そうなんだあ。…ふふふ」
返答を受けたセルジュは何故か嬉しそうだ。
実際のところ、嘘ではない。幼い頃から家族ぐるみで世話になっている花屋が、巡回で立ち寄った際に「今年はこれがおすすめよ」と言いながら、頭を悩ませる暇もなく花束を包んでくれるのが毎年恒例になっている。実家に立ち寄ったついでに花でも渡しておけば、無事の便りにもなるというものだ。
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