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    mizinko771

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    mizinko771

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    死ネタ。手遅れの話。
    短編です。スペクタクルPさんの「Silent Glory」という楽曲が元ネタになってます。めちゃくちゃ綺麗な曲なので聞いてみて欲しい……

    死するは金烏ひゅー、ひゅー、と呼吸音だけが響く空間にしんしんと雪が降る。白銀には鮮血の赤が映える。悠揚と笑いながらそう言ったのはどこの武人だったろうか。一面に降り積もる赤い雪を鍾離は感情の読み取れない、無機質とも言える眼で見ていた。辺りは惨状。その一言に尽きる有様だ。得体の知れない生物のちぎれた四肢や、内蔵などが大量に散らばり血生臭い。普通の人間ならあまりの光景にこの場を逃げ出すか嘔吐するかの2択だろうが、あいにく鍾離には見慣れた、とでも言えるような光景なのだ。そんなことよりも頭を占めていたのは、腕の中で苦しそうに呼吸を繰り返す、色素の薄い青年のこと。
    珍しく璃月に雪が降った。その雪に嫌な予感がしたのが始まりだった。予感の糸を辿るようにここまで足を運ぶと瀕死のタルタリヤが岩に背を預けるようにして荒い呼吸を繰り返していたのだ。
    鍾離は長い寿命の中で好意を人に伝える、ということは数え切れないほど経験してきた。酒を飲みかわした昔の友。仙人達。そして、璃月の人々。だがタルタリヤに対する好意はそのどれとも種類が違う。最初、鍾離は戸惑った。6000年もの長い時を生きてきて初めての感情にどうすればいいか熟考しすぎて空回りしたり、タルタリヤと会うのを避けた後、逆に自分から食事に誘ったりと一貫性のない行動をとった時もある。今思えば、それは恋だったのだろうと、今更になって明確に突きつけられてしまった。
    何もかもが遅すぎた。
    愛を伝えるのも。この場に駆けつけてやるのも。全て。
    血液が失われて余計に白く見える血色の悪くなった頬。雪の中、寒いはずなのに止まらない冷汗。次第にか細くなっていく息をただ見守っているしかないやるせなさをこの短い時間で繰り返し味わっている。

    「……公子殿」

    辛うじて意識を取り戻したらしいタルタリヤは鍾離の声を聞くと驚いたように表情を変えた。

    「ッげほ、せ、んせ」

    「…………」

    内蔵も散々傷ついているのか口から血を吐き出しながらタルタリヤが口を開いた。もう目も良く見えないのだろう。鍾離の頬を探すように伸ばされた手を鍾離はしっかりと握りしめて頬に誘導してやると、安心したようにタルタリヤが笑った。虚ろながらもタルタリヤの青い瞳は白銀が反射して眩く輝く刃のように幽玄だ。
    所々破けて血の滲んだ手袋を着けた、鍾離よりも少しだけ小さい手が弱い力で頬を撫でる。鍾離はタルタリヤの手を強く握った。なんと声をかけてやればいいかわからなかった。ただ命がこぼれ落ちないように。どうか、この男を連れていかないでくれと懇願するように手を握りしめるのが精一杯だった。

    「せんせい、……おれは、満足だよ。女皇様の兵器として、戦場にみをおいて、しんでいく。」

    でも、もっと強いやつと戦ってみたかったな、と途切れ途切れに言葉を紡ぐ青年は穏やかな顔をしている。タルタリヤは常に覚悟は出来ていたのだろう。きっと闘争を求めるタルタリヤにとって死は身近な隣人そのものなのだ。生物として感じるはずの死の恐怖には全くもって囚われていないように見える。

    「……お前も俺を置いていくのか」

    「は、……はは、なさけない声……」

    往生堂の客卿だろう。きちんと俺を見送ってくれ。と言いながらタルタリヤが噎せると、こぽ、と音を立ててまた鮮血が吐き出された。
    血濡れの口元を鍾離が拭う。

    「ッ……でもさ、このまま、しぬのはな……んだか惜しいなぁ……」

    「なら俺が付いて行ってやろう。地獄の底まで。」

    「ふ、やだよ、……せんせいは、生きてよ。」

    本当の意味で俺を殺さないでくれ。タルタリヤはそうつけ加えた。
    どうにも後追いは許してはくれないらしい。
    苦しそうな呼吸を繰り返す割にはどこか嬉しそうな顔でタルタリヤは力なく鍾離に身を預けている。
    限界が近いのか鍾離が握るタルタリヤの手にはもう殆ど力が入っていない。瞼は重そうに下がっており辛うじて瞬きをしているような状況だ。呼吸もゆっくりとした物に変わっており、まるで緞帳が命を覆い隠していくようでもあった。冷たい指先を握りしめるがタルタリヤから握り返してくることは無い。

    「眠いか。」

    「うん、もう、ねむ……いんだ……」

    「……そうか。……公子殿。俺は……」

    言いかけた言葉を遮るようにタルタリヤが言葉をかぶせる。

    「ね、おれ……せんせ……のこと……が」

    好き。


    蚊の鳴くような、小さな声。
    それきりだった。
    目を閉じて、最後の息を吐くように告げた言葉を残し、鍾離の返事も聞くことなく狡猾な男は逃げるように鍾離の元から去っていってしまった。まるで呪いのようだ。鍾離はこれから長い時を生きていく中で1度だってこのことを忘れられないのだろう。
    思えばタルタリヤはいつもそうだった。掴みどころのない自由な彼はのらりくらりと鍾離の手をかわして、呪いをかけていくのだ。
    鍾離先生。次はいつ会えるかな。先生。鍾離先生。
    璃月で過去に行われた会話が次々に蘇る。記憶の中のタルタリヤが鍾離に言葉を投げかける。嬉しそうに細められた綺麗な青い瞳。赤く染る白い肌。
    あぁ、これを呪いと言わずしてなんと呼ぼうか!
    鍾離は動かなくなったタルタリヤのくせ毛の髪を撫でて、額にキスを落とす。全くずるい男だ。言い逃げじゃないか。鍾離は泣き叫ぶことも恨み言も口に出すこともしなかった。
    雪が雨に変わったようで、タルタリヤの頬を雨粒が次々と濡らす。それを鍾離が自分からこぼれ落ちた涙だと気づいたのは数秒経った後だった。
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