【吊り橋効果】(がしゅほま)
「きっと吊り橋効果、ですよ。」
急に話しかけたために訝しげに彼がこちらに目を向ける。
「何が?」
「貴方が女の僕に優しかった理由です。」
ようやく自分で納得できる答えを出せた。しかし満足した僕とは逆に感情の掴めない表情で彼は僕を見つめる。少し考えるように黙った後、少し呆れたような声が響く。
「吊り橋効果なんだったら、僕は常日頃から綺麗な女性が事件に関わったらデレデレして優しくなる、って君に思われたってこと?」
「それは……、」
それは、正直面白くない。
この人が他人にデレデレするところなんて見てられない。そんなに軟派な男じゃないだろう。いや、僕が知らないだけで女性にはもっと優しい……のか?いや、この人が優しいのは親しい人だけのはず……
近くからため息をつく声が聞こえた。
「そんな顔するんだったら、くだらない事を考えてないで、ほら、早く今日見たい映画、君が選んで。」
「くだらないとは何ですか!……全く、今日はこれがいいです。」
「はいはい。電気消すから、ソファに座って。」
なんだか会話を流されたようで釈然としない。
それでもいつものようにソファに座ると、隣に彼が座り、電気を消した。
彼がリモコンを操作し、テレビから映画のイントロが流れ出す。
「……僕はそんな節操無しじゃないけど。」
テレビを見つめたまま彼が呟く。暗に不誠実な男だと言われたのだと思ったのか不愉快そうな感情が滲むのがわかった。
「それは何よりです。じゃあ他の人にうつつを抜かすとかやめてくださいね。」
僕の言葉に驚いたのか、彼はテレビから視線を外してまじまじと僕を見た。なんなんだ急に。横目でジロリと彼を睨む。
「なんですか?もう映画始まってますよ?」
「……いや、君が気にしないなら別にいいけど。」
その言葉と共に彼も視線を戻した。
それを見て自分も画面に集中するため視線を戻す。
………………あれ?今さっき僕はなんて言った?なんだか嫉妬する恋人の様な発言をしていなかったか……?
それに気づいた途端、羞恥で顔が熱くなってくる。
映画の内容なんて頭に入ってこない。早く、早く弁明しなければ……。
「ち、違いますからね!?他人にうつつを抜かして捜査に影響を出すなって言ってるんですからね!?」
「うんうん、わかってる。わかってるから少し落ち着いて。声の音量を下げて。座って。」
「ほんとにわかってます!?流さないでください!!聞いてますか、ちょっと!」
慌てた僕は彼に弁解を続け、今夜は全く映画を見ている場合じゃなくなり、今日の作品はまた次の機会に見よう、ということになったのだった。