十三夜の話一時間程残業をしてから帰ると、連絡をもらっていたとおり、彼女が食事を用意していてくれた。
「おかえりなさい」
彼女が部屋に来るのは一ヶ月ぶりくらいだろうか。ここ最近はお互いが忙しくて、週末は職場から近い彼女の家で過ごすことが多かった。
「今日は栗ご飯作りました」
肉じゃがにほうれん草のお浸し、それに栗ご飯。和食がテーブルに並ぶ。仕事が終わってから作ってくれたと思うと、ありがたさと同時に申し訳ない気持ちも浮かんでくる。いずれは一緒に住みたいとは思っているが、その時は家事の分担は決めておかないと、なんて。気が早いのは分かっているが、そんなことを考えてしまう。
「なぁ、あれ、何?」
美味しそうな飯も気になるが、それよりももっと気になるものがあった。椅子に座りながら、あれ、と指差す先には、花瓶に飾られたススキと積まれたお団子。今日は十五夜だったか?いや、十五夜は一ヶ月前にここでやった。その時も彼女がススキを飾って、お団子を用意していた。お酒を飲みながら月を眺め、その後は……まぁ、思い出すとにやけてしまいそうになる。
「今日は十三夜ですから」
「ジュウサンヤ……?あー、そういえばそんな歌のタイトルがあったような」
彼女の説明では、十五夜と同じように月見の習慣があり、十五夜と十三夜は両方見ないと縁起が悪いと言われているらしい。それも同じ場所で見るのがいいとか。
「で、俺の部屋ってわけか」
そんな十三夜の話をしながら食事を食べ、片付けを済ませる。それから十五夜の時と同じようにマンションのベランダから月を眺めた。
「まぁ、確かに綺麗だな」
少し欠けた明るい月を見上げながら、缶ビールを煽る。アルコールに弱い彼女は、お気に入りたという紅茶を淹れていた。紅茶なのに芋の香りがする不思議なやつだ。
しかし、一ヶ月でここまで涼しくなるか……。流石にベランダは少し寒い。何か羽織るものを持ってこようかと思ったが、暖を取るために彼女に抱きついた。
「ちょっと、菊田さん」
「だいぶ寒くなったからな」
いいだろ?と抱き締める腕に力を込める。仕方ないなぁ、と彼女が笑う気配がした。
「じゃあ、月見の続きといくか」
「続き?」
俺の言葉に、彼女は振り向き見上げてきた。
「十五夜の時は、ベランダだけじゃなかっただろ?」
「…………えっと」
「同じ場所で見るんだよな?」
「…………それって」
イヤじゃないんだろ?と耳元で囁けば、髪の合間から見える耳が真っ赤に染まっている。
「オヤジ臭いって前も言わなかった?」
「オヤジで結構って言った気がするぞ」
それにこんなこと言うのは、お前だけだし。
そう付け加えれば、彼女はこてんと俺の胸に頭を預けてきた。ようやく見えた彼女の顔も、真っ赤に染まっていた。