艶髪髪を、切った。
誰に頼むこともなく自分で。
じゃく、ばつりと音のしたあとでもう取り返しがつかないと遅れて気づいた。
当然、道行く知り合いなんかに何があったのかと聞かれたが、周りには「暑かったものだから」と言って押し通した。
そんな嘘をつくたびに胸が締め付けられるような気がして、逃げるようにその場をあとにした。
今日はあの人の所に行く予定があったのだ。
着いてからあの人が一番に口にしたのはオレの髪のことだった。
「ヘルメス、どうしたんだその髪」
暑さのせいですよ、最近はとてもじゃないが耐えきれない暑さだったもので、と言いかけた言葉は、あの人の声で遮られた。
「まあお前のことだ、失恋でもしたんだろう」
ああ、そのとおりだとでも言ってやりたかった。貴方のせいでこんなことになってるとでも言えばよかった。そしたら嫌でも記憶に残って離れなくなっただろう。
1641