生活音─世界の端で。
かちかちかちかちかちかち
ぱちぱちぱちぱちぱちぱち
かちかちかちかちかちかち
ぱちぱちぱちぱちぱちぱち
かちかちかちかちかちかち
ぱちぱちぱちぱちぱちぱち
かちかちかちかちかちかち
ぱちぱちぱちぱちぱちぱち
…煩い。
かち。
いつからこんな音が、なんてとうにわかりきっている。
それはきっと、オレが生まれてから、ずっと鳴っていた。
最初は気にならないくらいの音だった。
だが、時間が経つにつれこの音はどんどん大きくなっていって、今じゃオレの手に負えないほど鳴り続けるようになった。
…いや、元からオレがどうにかできるものじゃあなかったな。
だってこれは、オレの心臓の鼓動のようなものだから。
オレが生きている限り止むことはないのだ。
かちかちかちかちかちかち
ぱちぱちぱちぱちぱちぱち
かちかちかちかちかちかち
ぱちぱちぱちぱちぱちぱち
かちかちかちかちかちかち
ぱちぱちぱちぱちぱちぱち
最近は、音にかき消されて満足に会話すら出来なくなっていた。
周りはオレの様子がおかしいことをなんとなく察していたようだった。オレのことを心配して声をかけてくれているみたいだったが、それすらも声を発する前に、言葉を考えだした時点で聞こえなくなってしまった。
自分が「主人公」だからか、あるいはそうあるように植え付けられたちっぽけな正義が訴えるのか、周りを悲しませておいて返事すらまともにできない己を恨んだ。
だから、オレは次第に皆と距離をおいた。こんな広大で何も無い世界だ。歩き続ければ一人にだってなれる。
そうしてオレは独り、この鼓動を抱えて生きていくことにした。
自分一人じゃ死ぬことができないのだから、仕方がない。
かちかちかちかちかちかち
ぱちぱちぱちぱちぱちぱち
かちかちかちかちかちかち
ぱちぱちぱちぱちぱちぱち
一人になってから、言葉を発することをやめてからどのくらい時間が経ったのだろうか。
表立った物語は終われど、オレの物語は終わらない。
オレは生きている。生かされている。
だから思考を止めることすらできなかった。
十四文前に説明されている通り、言葉を発しなくても、物事を考えるだけでこの音は鳴る。鳴り続ける。
なぜなら、この音は向こうから打ち込まれている音だからだ。
オレの視れない、向こう向こうのそのまた向こうの別次元から。
人間が心臓を止めて生きれないように、オレのこの音もまた、止めて生きることはできない。
かちかちかちかちかちかち
ぱちぱちぱちぱちぱちぱち
この音は、「自分は作られた存在だ」ということを、「こうして考えていることすらもシナリオ通りの行為である」ということを嫌なほど突きつけてくる。
所詮、オレは漫画の中の一キャラクターでしかなかった。
こんなもの視えたってなんのメリットも無い。
なにも知らずに生きていけたら、漫画の中の一キャラクターだなんて微塵も思わず生きていけたら幸せだったのに。
こうしてオレが考えている間も、音が鳴り止む気配は無かった。
かちかちかちかちかちかち
ぱちぱちぱちぱちぱちぱち
やめろと叫んでも無駄だった。
ただただ己の無力さを痛感させるためだけに鳴り続けるその音は、オレの精神を蝕むだけで。
それでもオレは、死ぬのが怖かった。
かちかちかちかちかちかち
ぱちぱちぱちぱちぱちぱち
かちかちかちかちかちかち
ぱちぱちぱちぱちぱちぱち
でもそれもこれも全部、今となっては過去の話だ。
全ては前日譚に過ぎない。
かちかちかちかちかちかち
ぱちぱちぱちぱちぱちぱち
かちかちかちかちかちかち
ぱちぱちぱちぱちぱちぱち
かちかちかちかちかちかち
ぱちぱちぱちぱちぱちぱち
ああ、耳障りだ。
最期まで煩いままだった。
でもそれももう、これで最期だ。
オレはいつも通りに、物語をなぞった。
かちかちかちかちかちかち
ぱちぱちぱちぱちぱちぱち
かちかちかちかちかちかち
ぱちぱちぱちぱちぱちぱち
かちかちかちかちかちかち
ぱちぱちぱちぱちぱちぱち
かちかちかちかちかちかち
ぱちぱちぱちぱちぱちぱち
「神様どうか、この音が止まりますように…」
かち。
─世界の端で。