未完 クーラーの効いた部屋で向かい合う。教科書を積み上げていく俺を、無一郎さんが眺めている。
「貴方自分の宿題は?」
「終わってるよ」
夏休みが始まって一週間も経っていないのに。高校生の課題は中学生の宿題よりも量も多くて難しいだろうと思っていたけれど、そうでもないのだろうか。
「あんなの一日あれば終わるでしょ」
無一郎さんが例外だっただけらしい。興味なさげに指さされた先、部屋の隅に放られたワークの山は到底一日で終わる量じゃない。
「うわっ、出たよ天才」
「なんか褒められた感じしないな」
「褒めてますよもちろん。さすが天才棋士さまですねぇ」
適当にあしらいながらページをめくる。ぞんざいな扱いでも、無一郎さんが機嫌を損ねた様子はなかった。
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