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    higumafactory

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    higumafactory

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    五夏。冬の公園でstrがsgrが拾ってペットにすると言い出すやつ。ここまで書いて力尽きたので供養。

    ペットのすぐるくん冷たい風が吹き付ける夜だ。けれど街灯に照らされる人々の顔は、頬が明るく何だかそわそわと落ち着かない表情だ。
    それを見ると「ああ、そろそろクリスマスだもんな」と納得してしまう。
    そんな浮かれた人たちが歩くのをどこか遠くに見ながら、先月からはじまった二十一連勤のアルバイトが終わった私は気が抜けて公園のベンチから動けなくなってしまった。
    座ったところからベンチの冷たさが伝わってきて、身体は冷えていくのに全く身体が言う事を聞いてくれない。
    苦学生ではあったが、そんなに馬鹿みたいに働かなくてもやっていける。
    しかし、毎年クリスマスが近くなると胸に穴が空いた様な言葉で説明できない大きな喪失感に襲われ、それを無理矢理埋める様に予定を詰め込みクリスマスが終わる頃には身体を壊す。去年は様々な女の子と関係を持って、最後には刺されそうになり、それならばと今年は日払いのアルバイトを詰め込んだ。そんな無茶な事を子供の頃から毎年繰り返していた。

    ちらちらと白いものが目の前で舞っている。
    冷えて感覚が乏しくなった指先でそれを受け止めると、水滴になって乾いた肌に吸い込まれていった。
    雪まで降ってきた。半ばやけくそで、ベンチに仰向けになる。
    「このままここで寝たら凍死かな…」
    縁起でもない事を白い息と共に吐き出し、私はゆっくりと目を閉じた。

    「…おーい!おにーさん、こんなとこで寝たら死ぬよー!」
    どれくらいの時間が経ったのか、身体を揺すられ目を薄く開ける。
    「あ、起きた。こんな雪の中外で寝たらマジで死ぬよ?」
    雪の様に白い髪の毛が目の前でふわふわと揺れる。ぎょっとするほど整った顔をした碧眼の男が泣きそうな顔で私を見ている。
    「…天使?」
    公園のベンチで凍死して空から天使が迎えにきたのかもしれない。男の容姿は私に本気でそう思わせるくらい美しかった。
    「はいはい。天使のお迎えですよ〜。ってか立てそう?」
    笑いながら差し出された、大きな骨ばった手に自分の手を重ねる。彼の手も冷たかったが、自分の冷え切った手よりはあたたかく感じる。
    「おいで。一緒に帰ろう。」
    迷子の子供に言う様な優しい声音が、他に誰もいない公園に響く。重ねた私の手を彼はそっと握った。
    『どこに?』いつもなら怪訝そうな顔でそう言って初対面の男の手を振り払うだろう。でも今は二人の体温が溶け合って少しずつ温もりはじめた彼の手を離したくなかった。
    「うん。」
    私は頷くと彼の手を握り返した。

    公園から近いマンションまで手を引かれ連れて行くと、彼は鍵を回しドアを開けた。
    「上着、適当にそこにかけて。」
    「…初対面の人間を家の中に入れて大丈夫なの?」
    今更ながら私がそう聞くと、彼は自分のコートをハンガーにかけながら言った。
    「おにーさんが落ちてたから拾って帰ってきたんだよ。交番に届けた方が良かった?」
    「…はぁ?」
    「おにーさん可愛いし、俺の家で飼おうと思って♡」
    中高生の時バスケ部に所属していて、185センチを超えるがたいの良い男に可愛いと言う言葉は不釣り合いだ。そしてそんな男をペットの様に飼うと言い放った男の顔を怪訝そうに見つめる。
    「いや、そもそも私は犬や猫じゃないし…飼うならもっと可愛い人の方が良いと思う…」
    「えー、俺はおにーさんが良いんだよ。ね、俺に飼われる気ない?無くても帰す気ないけど♡」
    こんな男にのこのこ付いて来たのは自分自身だ。どうせ帰ってもまた、倒れるまで働いてクリスマスに寝込むのは目に見えている。
    私はため息を吐くと、着ていたダウンジャケットを脱ぎ彼のコートの隣にかける。
    二着並んだ上着を見て彼は嬉しそうに笑みを浮かべた。
    「…さとる。」
    「さとる?」
    突然彼が口から零した名前をそのまま繰り返す。
    「うん。俺の名前。ご主人様の名前だからちゃんと憶えてね?」
    柔らかく緩んだ頬を見つめる。
    「さとる。」私の唇が彼の名の形に動くのを眩しそうに見ると、さとるは満足そうに深く息を吸い込んだ。

    「さとるって、こう書くんだ。悟の五条って苗字、珍しいね。」
    悟がいれてくれた舌先が痺れるほど甘いココアを飲みながら、差し出された学生証を眺める。
    「そうかな。夏油の方が珍しいかも。五条はうち以外の分家もみんな五条だからな〜。」
    私が出した学生証を眺めながら悟は言う。
    「へぇ。分家って…悟って結構いいところのお坊っちゃまだったり?」
    「んー、そんな感じ。」
    そう言いながら悟がココアを一気に飲み干すのを、こんな甘い物をよく飲めるなと思いながら見る。
    部屋の時計の針は二十三時を指そうとしていた。
    「身体も温まったし、そろそろ帰ろうかな。」
    「えっ!どこに?」
    ソファから立ち上がると悟は私の腕を掴む。
    「だめだめ!ペットは帰らないよ⁉︎ここが傑の家だからね!」
    飼うとかどうとかの話忘れていなかったのか。心の中で舌打ちをして黙り込む私に、悟は更に言葉を投げかける。
    「そもそもなんで疲れたからって公園なんかで寝るんだよ。…なんかしんどい事があったとか?」
    悟の青く透き通った瞳に見つめられ、言い繕っても仕方がない気がして私は誰にも話した事がないクリスマス前に感じる喪失感の事を話し始めた。

    マグカップには底にたまった砂糖だけが残っている。私が話している間、悟はじっと聞いていた。少し何かを考える様な素振りを見せると、今度は悟が話し始めた。
    「傑のそれって、クリスマスには体調崩すの確定なの?」
    「子供の頃からずっとそうだね。ここまできたら仕方がないって諦めてるけど…」
    「じゃあますます帰って一人になるの危なくない?誰かと居た方がいいと思う。今日から俺のペット決定ね。」
    そう言うと悟は立ち上がり、コートを羽織った。
    「えっ、今から外出るの?」
    「ペットの傑くんは、今日からここに住めばいいよ。だから必要なもの買いに行かないと。」
    「えー…。悟坊ちゃんは年末年始は帰省しなくていいのかい?」
    「オエー、坊ちゃん呼びやめろよ。毎年帰ってるから今年くらいは良いんだよ。ほら、傑も着て。ドンキ行こ。」
    悟は私へダウンジャケットを投げて寄越した。渋々それに袖を通すと、玄関で靴を履いて待っている悟の元へ行った。

    深夜とは思えない明るく騒がしいBGMが鳴り響く店内をプラスチックのカゴを持って歩く。
    「歯ブラシと…あと下着かな」必要なものを選びカゴに入れていると、悟が駄菓子を抱えてきた。
    「これ一緒に食べよ。」
    あっという間にカゴがいっぱいになる。大袋のチョコレート、子供の頃よく食べた駄菓子の業務用パックでカゴが満たされていった。
    「こんなに食べきれないよ。それに甘いものばかり食べて飲んでたら虫歯になるよ?」嗜める様に悟に言うが、なぜか嬉しそうに頬を緩ませて私の顔を見る。
    「…なんか私の顔についてる?」
    「べっつにー。」
    私に怒られているのに嬉しそうに笑う悟と目が合う。
    前にもこんなことがあったんじゃないかと思うくらい、悟とこうしているのが妙にしっくりくるのが不思議だった。
    「傑、レジ行こ。ベンチじゃなくて布団で寝たいだろ?」
    「…それネタにするなよ。」
    行儀良く綺麗にならんだ白い歯を見せて悟が笑う。
    突然始まる奇妙な同居に、私は少しだけ浮いた気持ちでカゴを何度かブラブラと振って悟に笑みを返した。
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