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    岩藤美流

    @vialif13

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    岩藤美流

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    アズイデワンライ「カップ」
    前回の「誕生日」の前、アズール視点の話。バグったアズールが双子に相談しているだけの話です。

    ##ワンライ

    「おまえたち。イデアさんへの誕生日プレゼントに何を贈ればいいと思いますか」
     アズール・アーシェングロットがソファに腕組みをしたまま腰かけ、そう尋ねて来たのは11月18日の夜であった。テーブルの上には会計書や誓約書が束になっており、それを整理していたジェイドと、ソファに靴を履いたまま転がっていたフロイドがアズールを見る。
    「おまえたちの考えを聞かせてもらいましょう」
    「えー、なんでオレたちがアズールのプレゼントを考えなきゃいけねえの」
    「僕たちより、あなたのほうがイデアさんのことは詳しいでしょう?」
     リーチ兄弟の言葉に、アズールは「ふぅ」と溜息を吐いた。
    「いいですか? 僕とイデアさんの関係については、二人共理解していますよね」
    「恋人同士、ということですね」
    「そんな身内のプライベートなこと、オレ、首つっこみたくねぇんだけど」
     フロイドが嫌そうな表情を浮かべている。ジェイドも「できれば先に会計書を処理したいのですが」と顔に書いてあったけれど、アズールは無視して続けた。
    「そんな僕が、イデアさんへのプレゼントに失敗したとしましょう。どうなると思います? ああ、僕はショックのあまり会計も経営もできなくなってしまうかもしれません。そうなったらおまえたちにどれだけ迷惑をかけることか……」
    「うわ、脅してるし」
    「僕は悲しみのあまり毎晩泣いておまえたちの部屋に押し掛けてしまうかもしれません。墨も吐いてしまうかも……」
    「えー、ウザ。そんなアズールの面倒見るの、ちょーめんどくせぇんだけど」
    「おやおや。そうなったらとても困りますねえ」
    「と、いうわけで。協力するのはおまえたちの為にもなります。これは僕たちが付き合い始めて最初の誕生日プレゼントになりますから、失敗は許されないんです。何か意見は?」
     アズールが眼鏡を正しながら尋ねると、フロイドが「はあい」と手を僅かに上げる。
    「ホタルイカ先輩のー、ほしいものをあげたらいいんじゃね?」
    「それがわかれば、こんな話はしていないんですが」
    「ゲームとか~、おかしとか~」
    「イデアさんはそうしたものにはこだわりが有りますから、変なものを贈ったら幻滅してしまいますよ」
    「じゃあ、何が欲しいか聞けばいいじゃん」
    「聞いたらプレゼントが有るとバレてしまうじゃないですか」
    「はあー? めんどくせ……」
    「では、先日突き止めた彼の『欲しいものリスト』から何かを贈られては? 変に考えて贈るより安全だと思いますが」
     露骨に嫌な顔をし始めたフロイドに代わり、ジェイドが提案する。そう、指定暴力団オクタヴィネルの力をもってすれば、イデアの裏アカウントも欲しいものリストも手中である。公開すればとんでもないことになる秘密を握っているのは双子も同じで、それを利用して以前はオルトの改造に踏み切らせたこともあるのだ。逆にそこからイデアの欲しがっているものを導き出せば早いし、安全である。
     しかしアズールは首を振った。
    「この僕が恋人だというのに、イデアさんの『想像通りに欲しているもの』だけしか与えられないというのは、どうかと思うんです」
    「アズール、頭おかしくなってね?」
    「イデアさんの言いそうな言葉で例えるなら、バグってるんでしょうか?」
     双子がわりかし酷いことを言っているのだけれど、アズールは気にした様子も無い。
    「やはり価値有る物には、サプライズと相手のニーズを満たすことの両立が必要だと思うんです。もちろん、欲しいものリストからプレゼントを選出する手はあります。しかしそれは、「あっ、僕これ買おうと思ってたんだ、ありがとう!」ぐらいの価値しかないでしょう? もっと彼が想像もつかなかったけれど、欲しているものを贈らないと」
    「めんどくせ……それオレたちに相談してもわかるわけねーじゃん」
    「残念ですが、僕たちではなんとも……それに、もしかしてアズールの中ではもう、答えは出ているんではありませんか?」
     その上で、自信が無いからこうして僕たちの連帯責任にしようとしているんですね。ジェイドがハッキリと言ったものだから、アズールはしばらく返事をしなかった。アズールひどーい、とフロイドがからかうような声を出しても、アズールは腕組みをしたまま黙っている。
    「アズール。これはあなたとイデアさん、二人の問題です。僕たちに責任を分配することが不可能なのはおわかりでしょう。協力はできますが、一緒にすることはできません。あなたにとって、イデアさんが大切であればあるほどに」
     ジェイドの言葉を最後に、部屋には沈黙が満ちる。フロイドが退屈そうに足を組み直す、僅かな衣擦れの音だけが響いて、それからもまたしばらく誰も言葉を発さなかった。
    「……わからないんです」
     ポツリ、と漏らされた言葉に、フロイドが顔を上げると、アズールは珍しく気落ちしたような表情を浮かべ、床を見ていた。
    「……何もかも始めてで。こんなこと、どんな参考書にも記していませんから、どうしたらいいか」
    「ええ、アズールは友達の一人もいない寂しい人だから、何もわからないでしょうね」
    「おい、傷口に塩を塗りこむんじゃない。人が真剣に相談しているのに」
    「だってアズール、わかんねーのに正解しようとしてんだもん。最初から無理じゃね?」
    「だから、わかろうとしているんだろう。おまえたちに何かいい案があれば、」
    「アズール」
     ジェイドに名を呼ばれて、アズールは言葉を呑み込む。
    「残念ですが、僕たちはあなたとイデアさんの恋人関係について詳しくありません。あなたより良い案を持っているとは思えない」
    「……」
    「ですが、友達の一人も作れない、人間関係初心者のあなたになら、一つアドバイスすることはできます」
    「……なんですか」
     何度も言われてムスリとしたアズールに、ジェイドは彼にしては本当に微笑んだような表情を浮かべて言った。
    「仮に、あなたの選んだプレゼントそれ自体が、イデアさんにとってありがたいものでなかったとしても。そのプレゼントを使って過ごす時間が、お互いにとって良いものであれば、それは失敗ではないかもしれませんよ」
    「……」
     ジェイドの言葉に、アズールは顎に手をやって考え込む。フロイドは溜息を吐いて、「ねーそろそろ仕事しねーと、このままじゃ残業になっちゃうじゃん~」と起き上がる。仕事を手伝う気になったらしく、会計書に手を伸ばしてフロイドや、作業を再開したジェイドをよそに、アズールはそれからもしばらく考え込んでいた。
     それから数分経って、アズールは「なるほど」と大きく頷いて、笑顔を浮かべた。
    「つまり! 保険を掛ければ僕が賭けに負けることはないということですね!」
     恐らく、ジェイドのアドバイスは曲解された。しかしジェイドもフロイドも、アズールさえもそれ以上問答を続ける気はなかった。「さあ、片付けて明日に備えるとしましょう」といつもの調子に戻ったアズールは、会計処理を再開する。


     彼が、海の揺らめきのような、あるいは焔の儚さのような深い青のティーカップを、1つずつ、茶葉と別に購入するのは、更に二週間後のことだ。
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    岩藤美流

    DONE歌詞から着想を得て書くシリーズ①であり、ワンライの「さようなら、出会い」お題作品の続きです。参考にした歌は「A Love Suicide」です。和訳歌詞から色々考えてたんですけど、どうも予想通りタイトルは和訳すると心中だったようですが、あずいでちゃんはきっと心中とかする関係性じゃないし、どっちもヤンヤンだからなんとかなりそうだよな、と思ったらハッピーエンドの神様がゴリ押しました。イグニハイド寮は彼そのものの内面のように、薄暗く深い。青い炎の照らしだす世界は静かで、深海や、その片隅の岩陰に置かれた蛸壺の中にも少し似ている気がした。冥府をモチーフとしたなら、太陽の明かりも遠く海流も淀んだあの海底に近いのも当然かもしれない。どちらも時が止まり、死が寄り添っていることに変わりはないのだから。
     さて、ここに来るのは初めてだからどうしたものか。寮まで来たものの、人通りが無い。以前イデアが、うちの寮生は皆拙者みたいなもんでござるよ、と呟いていた。特別な用でもなければ出歩くこともないのかもしれない。さて、寮長の部屋といえばもっとも奥まっている場所か、高い場所か、あるいは入口かもしれないが、捜し歩くには広い。どうしたものかと考えていると、「あれっ」と甲高い声がかけられた。
     見れば、イデアの『弟』である、オルトの姿が有る。
    「アズール・アーシェングロットさん! こんばんは! こんな時間にどうしたの?」
     その言葉にアズールは、はたと現在の時刻について考えた。ここまで来るのに頭がいっぱいだったし、この建物が酷く暗いから失念していたけれど、夜も更けているのではないだろうか。
    「こ 5991

    affett0_MF

    TRAININGぐだマンワンドロワンライ
    お題「天使の囁き/ダイヤモンドダスト」
    はぁ、と吐き出した息が白く凍っていく。黒い癖毛を揺らしながら雪を踏みしめ歩く少年が鼻先を赤く染めながらもう一度大きく息を吐いた。はぁ。唇から放たれた熱が白く煙り、大気へと散らばっていく。その様子を数歩離れたところから眺めていた思慮深げな曇り空色の瞳をした青年が、口元に手をやり大きく息を吸い込んだかと思うと、
    「なぁマスター、あんまり深追いすると危ねぇっすよ」
    と声を上げた。
     マスターと呼ばれた癖毛の少年は素直にくるりと振り返ると、「そうだね」と笑みと共に返し、ブーツの足首を雪に埋めながら青年の元へと帰ってきた。
     ここは真冬の北欧。生命が眠る森。少年たちは微小な特異点を観測し、それを消滅させるべくやってきたのであった。
    「サーヴァントも息、白くなるんだね」
     曇空色の瞳の青年の元へと戻った少年が鼻の頭を赤くしたまま、悪戯っぽく微笑んだ。そこではたと気が付いたように自分の口元に手をやった青年が、「確かに」と短く呟く。エーテルによって編み上げられた仮の肉体であるその身について、青年は深く考えたことはなかった。剣――というよりも木刀だが――を握り、盾を持ち、己の主人であるマスターのために戦 2803

    YOI_heys

    DONE第1回 ヴィク勇版ワンドロワンライ『ひまわり』で書かせていただきました!
    ひっさびさに本気出して挑んでみましたが、急いだ分かなりしっちゃかめっちゃかな文章になっていて、読みづらくて申し訳ないです💦これが私の限界…😇ちなみにこちらhttps://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17839801#5 の時間軸の二人です。よかったら合わせてご覧下さい✨
    第1回 ヴィク勇版ワンドロワンライ『ひまわり』※支部に投稿してあるツイログまとめ内の『トイレットペーパーを買う』と同じ時間軸の二人です。
    日常ネタがお好きな方は、よかったらそちらもご覧ください!(どさくさに紛れて宣伝)



    第1回ヴィク勇ワンドロワンライ『ひまわり』


    「タダイマー」
    「おかえり! って……わっ、どうしたのそれ?」

    帰ってきたヴィクトルの腕の中には、小ぶりなひまわりの花束があった。

    「角の花屋の奥さんが、持ってイキナ~ってくれたんだ」

    角の花屋とは、僕たちが住んでいるマンションの近くにある交差点の、まさしく角にある個人経営の花屋さんのことだ。ヴィクトルはそこでよく花を買っていて、店長とその奥さんとは世間話も交わす、馴染みだったりする。

    ヴィクトルは流石ロシア男という感じで、何かにつけて日常的に花を買ってきては、僕にプレゼントしてくれる。日本の男が花を贈るといったら、母の日や誕生日ぐらいが関の山だけど、ヴィクトルはまるで息をするかのごとく自然に花を買い求め、愛の言葉と共に僕に手渡してくれるのだ。
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