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    岩藤美流

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    岩藤美流

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    アズイデワンライお題「薬」
    付き合ってない二人、とんでもないことがバレてしまってることに気付いてないあずにゃんを添えて

    ##ワンライ

    ついに、ついにその時がきた!
     イデアは勝利の喜びに思わず椅子から立ち上がり、「っしゃあ!」と彼らしくもない声を出した。急に健康そうになったイデアをよそに、机に向かったままのアズールは苦虫を嚙み潰したような顔をしている。
    「まさかこの僕が、このゲームで負けるなんて……!」
     そう、今まで二人が戦っていたボードゲームは、アズールが得意とするマネー系のボードゲームだ。アズールがイデアに負けたのはやり方を覚えるまでの数回で、後はやる度にアズールが勝利していたものだから、しまいにイデアはそのゲームを提案しなくなるほどだった。
     しかし先日、イデアが言った。
    『罰ゲーム有りでボドゲ勝負しない? お互い指定したゲームを順番にプレイして、先に2勝したほうの言うことをなんでも聞くってルールで』
     それに対してアズールは『なんでも、は少し範囲が広すぎますね。その時その場で完結することを条件とするなら乗ります』と言った。そして勝負の約束はなされ、今日に至る。一戦目はイデアの得意とするすごろく系ゲームで勝ち、二戦目、予想通りアズールは大の得意であるそのボードゲームを指定してきた。
     そしてイデアの大勝利、つまり先に2勝したわけだから、罰ゲームを指定できるのだ。
    「拙者が本気を出せば、頭脳系のボドゲでもアズール氏にも負けないってことですわ、フヒヒッ、どんな気持ちですかあ? 自分の得意なゲームで負けたのって~」
    「それを聞くのが罰ゲームですか?」
     おっと、そんなことを聞くためにこの賭けを始めたわけではない。イデアは「違いますし!」とすぐに話を切り替えて、懐から小瓶を取り出す。
     市販されているエナジードリンクのラベルを剥がしたもので、中には液体が入っているようだが、茶色い瓶だから外見では何かわからない。それをアズールの前で揺らしながら「これを飲んでもらいます!」とイデアは笑った。
    「それ、何です?」
    「それは秘密」
     アズールが怪訝な顔をして瓶とイデアを交互に見つめている。心底嫌そうな顔に、イデアは胸がドキドキしてくるのを感じた。
    「この部屋の中で効果が完結するものなんでしょうね」
    「勿論! 拙者、約束は守る性分なので!」
     大きく頷いて、瓶を差し出す。「さささ、ぐいっと。一息に呑んだ方が楽ですぞ」と言って渡すと、アズールは不愉快そうに眉を寄せて瓶の蓋を開け、匂いを嗅いでますます顔をしかめた。
     イデアも事前に飲んだけれど、結構なヤバい匂いがしたし、味も最悪だった。罰ゲームにしても大丈夫かシミュレーションまでしてやったのだから、アズールには感謝してもらいたい。もっとも、口が裂けても言えないが。
    「……はあ、全く。……では」
     アズールは一つ大きな溜息を吐いて、その瓶の中身を呷った。それを見て、イデアは思わず顔を赤らめた。
     イデアが飲ませたもの、それは惚れ薬である。飲んだ時に目の前にいる人に惚れて、デレデレになってしまうのだ。条件により効かない場合も有るが、殆どの場合効果は抜群、しかしその効能は短く、ものの数分。
     そう、イデアはアズールに恋愛感情を抱いていた。けれど告白する勇気が無い彼は、アズールになんとか理由をつけて惚れ薬を飲ませて、一時でもいいから幸せを噛み締めたいと思っていたのだ。それが惚れ薬による作用でもいい、アズールに「イデアさん、好き……」と少女漫画のように謎のほわほわを飛ばしながら言われただけで良かった。それを支えに生きていける気がした。
     そして効果が切れたら「アズール氏が拙者にメロメロになるクソダサい姿を見れて面白かったですぞwww」とでも煽っておけばいい。そうすれば、アズールもこれがただの性格の悪い罰ゲームだったと思ってくれるだろう。
     嘘でもいいからアズールに好きだと言ってほしかった、それだけでこの恋を諦められると思ってのことだった。こんな陰キャの男にアズールが惚れるなんてことは、99%あり得ないのだから。
     さあさあ、拙者の胸に飛び込んで、目を潤ませて好きだと言ってくるがいい。イデアはドキドキしながらアズールを見守った。
     アズールは瓶の中身を飲み干して、机に置き。そして、涙の滲んだ瞳をイデアに向けて。
    「……くっそまずい!」
     と叫んだ。
    「……へ?」
    「なんですかこれ!? 尋常じゃない不味さですね!? これが罰ゲームですか、本当に酷い味だ……!」
     アズールはイデアを見ても何も変わりなく、瓶に向かって悪態をついている。そんな様子をポカンをして見ながら、イデアは情報を整理していた。
     効いてない。効いてないわこれ。
     効かない場合。効かないのは何故か。
     ――対象に既に惚れている場合には、効果は出ない――。
    「……ファッ!?」
     ボッ、と音を立てて、顔はおろか髪まで真っ赤に染まったイデアに、アズールは怪訝な顔をした。
    「なんです、変な声を出して。おまけに見たこと無いぐらい赤くなってますけど」
    「ひゃ、な、なんでも、ない……えっ、マジで? そんな、えっ、そんなことってある……1%を神引きしたとかそんな、嘘だろ……えっ」
    「何をブツブツ言ってるんです? そんなことより、このゲームで僕が負け越しなんて許せない、もう一戦――」
     床を見て独り言を漏らしていると、アズールが手を伸ばして触れたものだから、イデアは「ピャアアーーッ!」とまた奇声を発する羽目になった。
     

     二人がお互いに好意を伝え合うまでには、まだもう少し時間がかかる。
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