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    岩藤美流

    @vialif13

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    岩藤美流

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    お題「赤/ヴァルプルギスの夜」です。

    捏造と不穏だらけの話ですが、付き合ってるアズイデ。でも確信には触れてません。
    いでぴの設定がわからないことにはなあ、と考えていたんですが、確定してない今だからこそ書けることもあるかなと思って。
    いでぴが夜食を食べたがるのは、向こうの世界の食べ物を食べたら……みたいなアレがアレしてるイメージです

    ##ワンライ

     赤。
     ポツリ、ポツリと赤い炎が揺れている。風に揺れるそれを見ながら、夜の闇に身を寄せていると、声がする。名を呼ぶ声が。
     それに耳を貸さずにいれば、やがて目の前にぴょこりと青い炎が飛び出したから、イデアはハッとして目の前の弟に視線を戻した。
    「兄さんってば! 聞いてるの?」
    「ああ、ご、ごめん、考え事してた……」
    「もう、こんな暗いところで考え事してたら、転んじゃうよ? どうかな、炎はこれぐらい置けば十分かな?」
     イグニハイド寮の片隅、建物の灯りも届かない真っ暗な闇の中に、ポツリポツリと目印のように置かれている炎。本来は赤く灯るように成分が調整されたランプを置くのだが、学園内で無用の炎を使うのは流石のイデアでも気が引ける。だからそれは、炎に良く似せたホログラムの浮かび上がる、手のひらほどの端末だ。オルトの整備用部品の余りなどを使って作り出した、疑似ランプ。それが、道を作るかのように点々と並び、イグニハイド寮の入口から続いて闇に向かって伸びている。二人がいるのは、そんな闇とランプの境目だった。
    「こんばんは、お二人共」
     そこへ、声がかかる。見れば寮の方から、銀の髪を揺らし、本来そこにいないはずの人物が現れた。アズール・アーシェングロットその人だ。
    「こんな時間に何をしているんですか?」
    「あっ、こんばんは、アズール・アーシェングロットさん! それはこっちも同じだよ、どうしてここにいるの?」
    「イデアさんのところにお邪魔しようとしたら、赤い光が目に入ったので。その先に青い炎が見えましたから、お二人がいるのだろうと思ってここへ来たんですよ」
     アズールはそう言って手に持っていた紙袋を見せる。そういえば、明日は休みだから夜遅くまでゲームを一緒にしようと話していた。モストロ・ラウンジから夜食も持って行くと。それは楽しみにしていたのだけれど、オルトがどうしても”コレ”がしたいと言うから急遽外に出て、連絡するのを忘れていたようだ。イデアが謝罪するより先に、オルトが「そっか、ごめんなさい、アズール・アーシェングロットさん」と頭を下げた。
    「あのね、今日はお祭りの日だから、気分だけでも味わいたいからって、兄さんにお願いしたんだ」
    「お祭り……ですか?」
     4月30日。その日付を考えて、アズールは首を傾げる。無理もない。イデアは苦笑して、オルトの代わりに口を開いた。
    「拙者達の住んでた嘆きの島って言うのは、結構冥府と現世が近いって言われてたんですわ。で、いわゆる季節の変わり目……特に、秋と冬、冬と春の境目に、死と生の境目も曖昧になる日が来る、って言われててね」
    「つまり……ハロウィン、のような日が、今日だと?」
    「そ、まあ結構ハロウィンに比べて文化自体がマイナーになっちゃったみたいだけど、拙者達の故郷にはまだ風習が残っててね。こうやって赤い火を灯すんですわ、家の前とか、道沿いとかに」
    「コレ、ですか……」
     アズールが興味深そうにランプの一つを見ているから、オルトは余っていた一つを彼に手渡して、点火する。それは本物の赤い炎のように眩しく、ゆらゆらと風に揺らめいていて、アズールはそれに見入っていた。
    「すごい、これ、イデアさんが作ったんです?」
    「そうですな、まあそう難しいもんでもないんですが、何しろ量が必要だったんで、急いでたら連絡できなくて……ごめんね、アズール氏」
     イデアがあんまり素直に謝罪をするものだから、アズールは顔を上げる。イデアは困ったように微笑んだ。
     二人は、つい最近関係を変えたばかりである。先輩と後輩から、友人へと変わった関係が、更に親密に、秘密を深めた。それをまだオルトにも伝えられていない。それも重なって、オルトの頼みを断ることもできず、アズールとの時間を諦めることもできなかったのだ。アズールはややしてニコリと笑って、「構いませんよ」と頷いた。
    「それより、これはどういう風習なんです? ジャック・オー・ランタンのようなものですか?」
    「ま、そんな感じっすな。嘆きの島の辺りではね、冥府の炎は”青い色”をしているって言われてるんですわ」
     青い炎。アズールが音も無くそう呟いているのを見ながら、イデアは説明を続ける。
    「だから、”赤い色”の炎を灯して、ここは生きてる人の領域ですよ、近寄らないでくださいね、ってお帰り願うわけですな。死者が生者の家に紛れ込んだり、近寄ったりしないように。手にはランプを持ってね」
     そこまで説明してから、イデアは自分の髪を見せて笑った。
    「ま、拙者が青い炎のランプしちゃってるんで、意味ないんですけどね、フヒヒッ」
    「もう、兄さん! それなら僕も同じだよ!」
     オルトがそう言って、それからアズールに何かを話しかけたものだから。イデアの「オルトは……」という言葉は、かき消された。
    「そういう風習も有るんですね。勉強になります」
    「しなくていいっすわ、こんな廃れに廃れた文化。オルトが好きならするけどね」
    「弟思いのお兄様でいらっしゃる」
    「でもこんな夜は出歩かない方が良いよ、本当に」
     ゴーストが存在しない世界なら、いざしらず、さ。
     イデアがそう呟く。アズールはそんなイデアを見て何かを言おうとしたようだったけれど、そのまま言葉もなく口を噤んでしまった。それでオルトが2人の顔を見た後で、「兄さん、ありがとう! 兄さんとお祭りができて嬉しかったよ!」と笑った。それに微笑み返すと、オルトがランプを拾い始める。
    「他の人も、なんだろうと思ったらいけないもんね、ちゃんと回収しておかないと」
    「お手伝いしますよ、オルトさん」
     それにしても本当に美しい炎だ、これはお金になりそう……いえ、本当に価値が有りそうですね。全然言い直せてないでしょ、とアズールの言葉に苦笑しながら、イデアも後を追おうと二人を見る。
     闇の中に、うっすらと二人の姿が見える。僅かな赤い炎が、命を照らしている。あとは深い闇ばかり。その赤が無ければ、行き先も、戻る場所もわからぬほどの。
     イデアさん。
     声を呼ばれた気がした。愛しい声に。だから思わず、振り返った。
     そこに有るのは闇ばかりだ。深い深い、闇ばかり。
     ああ、しまった。振り返っては、いけなかったのに。
     気温が、体温が下がった気がする。ひどく寒いような、冷たいような。足の先から氷の張った水に沈んでいくような感覚に、身動きができない。何も見えない深い闇を、青い炎だけが照らしている。冥府の炎が。揺らめいている。死者の国の炎が、細く、細く。
     ああ、ああ。
     ここは境界だ。生と、死の。どうして振り返ってしまったのだろう。あの声のせいだ。”奴ら”、年々賢くなってきている。どうやっても、僕を”あっち”に連れて行きたいのか、――”あの子”みたいに――。
     何も見えないのに、そこに何かが蠢いている気がする。身を翻して逃げたいのに、指先一つ動かせない。何もいないはずなのに、何かの気配が近づいている気がして、呼吸が荒くなる。冷たい汗が滲み出る。ここは、境界だ、僕は踏み込んでいる、僕は、僕は”あっち”にーー。
    「ーーッ!」
     ぎゅ、っと手を握られて叫び声が上がりそうになった。けれどその手が温かい。すると先程までのことが嘘のように体は動くようになっていて、振り返るとすぐそばにアズールが立っていた。握ってくれている手は、アズールのものだ。温かい。血が通っている。白いけれど、確かに生きている者の手。
    「イデアさん」
     アズールの手には、赤い炎が揺らめいている。その赤に照らされて、アズールの頬は生の色を鮮やかに刻んでいた。
    「さあ、イデアさん。帰りましょう。あちらへ」
     その端正な顔が、優しい笑みを作る。それが泣き出したいほど柔らかくて、愛しくて、恋しくて。イデアはただただ、「うん」と頷いて、その手をぎゅっと握った。
    「夜食、食べたい、すぐ」
    「おやおや、随分お腹を減らしているんですね」
    「それに、後でいいから」
     ぎゅっとしてキスしたい、いっぱい。オルトが寝てからでいいから。朝までそうしててほしい、できることなら。
     小さな声は震えていたかもしれない。まだ”あっち”には行きたくない。行く気も無い。けれどやはり、怖い。震えるほど、怯えるほど。あまりにも”生きている”この男の腕の中でなら、安心できるかもしれない。
     赤い炎に照らされたアズールは、やはり微笑んで、「勿論構いませんよ、僕はあなたの……恋人ですから」と囁く。その言葉が嬉しいのに、怖くて、切なくて、縋りつきたくて、涙が出そうだ。けれどなにより、愛しい、恋しい。イデアの顔は青い炎に照らされていたけれど、僅かに、ほんのわずかに赤みを帯びた。
     それは、生者の色だった。
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    れんこん

    DONE第二回ベスティ♡ワンライ
    カプ無しベスティ小話
    お題「同級生」
    「はぁ……。」
    「んんん? DJどうしたの?なんだかお疲れじゃない?」

    いつもの談話室でいつも以上に気怠そうにしている色男と出会う。その装いは私服で、この深夜帯……多分つい先ほどまで遊び歩いていたんだろう。その点を揶揄うように指摘すると、自分も同じようなもんでしょ、とため息をつかれて、さすがベスティ!とお決まりのような合言葉を返す。
    今日は情報収集は少し早めに切り上げて帰ってきたつもりが、日付の変わる頃になってしまった。
    別に目の前のベスティと同じ時間帯に鉢合わせるように狙ったつもりは特に無かったけれど、こういう風にタイミングがかち合うのは実は結構昔からのこと。

    「うわ、なんだかお酒くさい?」
    「……やっぱり解る?目の前で女の子達が喧嘩しちゃって……。」
    「それでお酒ひっかけられちゃったの?災難だったネ〜。」

    本当に。迷惑だよね、なんて心底面倒そうに言う男は、実は自分がそのもっともな元凶になる行動や発言をしてしまっているというのに気づいてるのかいないのか。気怠げな風でいて、いつ見ても端正なその容姿と思わせぶりな態度はいつだって人を惹きつけてしまう。
    どうも、愚痴のようにこぼされる 2767

    YOI_heys

    DONE第1回 ヴィク勇版ワンドロワンライ『ひまわり』で書かせていただきました!
    ひっさびさに本気出して挑んでみましたが、急いだ分かなりしっちゃかめっちゃかな文章になっていて、読みづらくて申し訳ないです💦これが私の限界…😇ちなみにこちらhttps://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17839801#5 の時間軸の二人です。よかったら合わせてご覧下さい✨
    第1回 ヴィク勇版ワンドロワンライ『ひまわり』※支部に投稿してあるツイログまとめ内の『トイレットペーパーを買う』と同じ時間軸の二人です。
    日常ネタがお好きな方は、よかったらそちらもご覧ください!(どさくさに紛れて宣伝)



    第1回ヴィク勇ワンドロワンライ『ひまわり』


    「タダイマー」
    「おかえり! って……わっ、どうしたのそれ?」

    帰ってきたヴィクトルの腕の中には、小ぶりなひまわりの花束があった。

    「角の花屋の奥さんが、持ってイキナ~ってくれたんだ」

    角の花屋とは、僕たちが住んでいるマンションの近くにある交差点の、まさしく角にある個人経営の花屋さんのことだ。ヴィクトルはそこでよく花を買っていて、店長とその奥さんとは世間話も交わす、馴染みだったりする。

    ヴィクトルは流石ロシア男という感じで、何かにつけて日常的に花を買ってきては、僕にプレゼントしてくれる。日本の男が花を贈るといったら、母の日や誕生日ぐらいが関の山だけど、ヴィクトルはまるで息をするかのごとく自然に花を買い求め、愛の言葉と共に僕に手渡してくれるのだ。
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