いつかの文目 ──きっともう長いこと、ここにいない誰かの影を追っている。
♢♢♢
「しっ、失恋⁉」
「わ、声大きいって……」
晶が慌てて辺りを見回すと、思わずと言った様子で立ち上がっていた彼女は気まずそうに腰を下ろした。
物の少ない空間というのは得てして音がよく響くもので、それは無機質さを売りの一つにしているカフェの中でも例外ではない。店の雰囲気を壊してしまっただろうかと恐る恐る周囲を窺う。こじんまりとした店内には晶たちの他に作業をしている様子の女性が一人いるが、彼女はこちらに一瞥をくれることもなく端末の画面に注視していた。席の位置的に確認できないが、バックヤードから店員が出てくるような様子もない。
とりあえずカフェの運営に支障をきたすほどの迷惑はかからなかったようだ。晶はほっと胸を撫で下ろし、複雑そうな顔をしている友人に向き直った。
1908