食い気より色気カメラを向けられていることに気付いた時には大きく口を開けてしまっていて、まあいいかとクロノはそのまま熱々の肉まんにかぶりついた。元々細かいことは気にしないタイプだし、何より今は冷めないうちに肉まんを食べたい食欲が勝っていたのである。寒い冬と言えばやっぱり買い食いの肉まんじゃと最初に教えてくれたのはアカバである。疲労と空腹でくたくたになっている中食べる肉まんとはこうも美味いものかと感動して以来、任務の帰りに本部近くのコンビニに寄り道をして肉まんを買うのがちょっとしたマイブームになっている。ふわふわもちもちでほんのり甘い皮、そして中から現れる、ジューシーで食べ応えのある餡。筍と玉ねぎが混ぜ込まれているのか、シャキシャキした食感が楽しい。そして何より、手が悴みそうなほど寒い日に食べる肉まんのなんと美味しいことか。まるでホッカイロのように、掌を温めてくれる。その上腹と心まで満たされるのだからすごい食べ物だ。
肉まんを堪能していると、ちょうどその様子をカメラで撮っていた張本人であるハイザキが「ふふ」と幸せそうに笑う声が聞こえた。彼はクロノと同じく肉まんを買ったのだがそれは袋に入れたままで、手袋を着け防寒もばっちりな手にはスマートフォンが握られている。
「おれのことなんて撮って楽しいか?早く肉まん食べないと冷めるぞ」
「はい、とっっっっても楽しいです。肉まんは後からいただきますから。ぼく猫舌なので」
まあハイザキがいいならいいかと納得し(隣でスマホンが「納得しちゃうんですね」と若干呆れた様子でいるが)、クロノは残りの肉まんを存分に楽しむことにした。
「あーっ!!!」
しかし後ろから、こちらもちょうど別の任務を終えたところらしいグレイがやってきたことで、場はまたしても引っ掻き回されることとなった。「ずりーぞハイザキ!」と突っかかりハイザキの腕に掴みかかるグレイと「ずるくないよ、強かだって言ってくれる」などと返してべぇと舌を見せ挑発的な態度のハイザキに、クロノは今度こそ肉まんを食べる手を止める。往来でこれ以上喧嘩をされては困るし、周りにも迷惑がかかってしまう。
「そうやってすぐ喧嘩するなっていつも言ってるだろ。食べたいならグレイの分も買ってくるぞ?せっかくだし、アカバやレモンたちにも買って行ってお土産にでも……なんだよその顔」
「そうじゃないんだよ、わかってねぇなぁクロノは」
「クロノさん、鈍すぎるとこういうのに付け狙われちゃいますよ。気をつけないと」
「え、いや、これおれが悪いのか?」