隣を歩いていたはずの伊作が、突然消えた。否、正確には『消えた』のではなく『落ちた』のである。穴に。いったい誰が掘ったのやらわからないが、身長よりも若干深い落とし穴である。留三郎は地面に膝をつくと、伊作に向かって手を伸ばした。
「伊作、大丈夫か?」
「うん、平気。そんなに深い穴じゃなかったから」
へりに手をひっかけ、穴の壁を登りつつ留三郎の力も借りつつ、伊作はなんとか無事地上へと戻ってくることができた。
「ごめん、留三郎」
しゅんと眉を下げる伊作に、留三郎はいやいやと手を横に振った。仲間を助けるのは人として当たり前のことだ。伊作は同じクラスで同室なのだから尚更。それに、こうしおらしくされてしまうとどうも落ち着かない。
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