earnestness「付き合って貰っちゃって悪いね」
「いえ、こちらこそ。夕飯をどうしようか迷っていたので、誘って頂けて嬉しいです」
「そう? 俺としては、衣都にそう言って貰えて嬉しいよ」
笑い顔を浮かべた吏来が衣都の向かいの席に座った途端、スマートフォンから呼び出し音が鳴った。
「……」
鳴り続けるコールに、マナーモードにしておかなかったのは失敗だったと吏来が眉を寄せたのを、彼女は見逃さなかった。
「どうぞ、出て下さい」
「すぐ戻る。ごめん」
吏来は一旦席を立つと店外に出て、ため息をひとつ。それから通話ボタンをタップして、相手に煩わしさを気取らせないよう手短かに会話を切り上げた。
席に戻る前に、店内を興味深そうに見回す衣都の姿を遠目から観察する。
5129