Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    kaiwainohajikko

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 1

    kaiwainohajikko

    ☆quiet follow

    灼熱レオラギ祭後夜祭の参加作品です。
    レラが海辺の遊園地にいくだけです。

     太陽が眩しい夏の盛り。レオナの洗濯物を畳んでいたラギーがふと、次の休日はバイトが入っていないのだと言ってきた。レオナは珍しい事もあるものだと思いつつベッドに寝転んだまま、なんとも無しに「なにか予定でもあるのか」と投げかけると、少しの沈黙の後、これまた想定外の答えが返ってきた。
    「特に予定は入れて無いんスけど。折角ならどっかに遊びに行きたい…かも」
     ラギーといえば、少しでも時間が空けば何か割の良いバイトがないか求人サイトと睨めっこしたり、モストララウンジに臨時でシフトを入れられないかアズールと交渉したり、はたまた植物園での秘密の仕事…もといマンドラゴラの栽培に勤しむのが通例だ。てっきり今回も同じ答えが返ってくるかと思ったレオナは少々面食らい、反射的に浮かんだ「どこかって、どこだよ?」という疑問を、しかし吐き出さぬまま口を閉じた。
     そんな事を問うたらこのハイエナは「うーん。そう言われると何も思いつかないッスね!やっぱりバイト探そっかなぁー」等と言うに決まっている。
     レオナは飲み込んだ言葉の変わりに溜息を吐くと、そのまま無言でスマホを手にしてマジカメを立ち上げた。ケイト・ダイヤモンドのアカウントを探しあて、そのままスクロールして色取り取りの投稿画像に目を通す。ケイトは自撮り写真だけでなく、流行の店やおすすめスポットなどの情報も逐一投稿しているのだ。お茶会のケーキや麓の街に出来た新しいカフェの写真をスルスルと見ていくと、パッと青一色の空とカラフルな建物が写された画像が目に入った。
     
     『港に移動遊園地が来てるんだって!レトロな感じがおしゃれって密かに口コミが広がってるみたい!ケーくんも行ってみようかな⭐︎#遊園地#レトロ#映えスポット』
     
     ※※※
     という訳で、このくそ暑い真夏日に、二人は海岸くんだりやってきたのである。
     いつもであれば温度が適度に調整された学園から一歩も出ずにダラダラと昼寝をしているレオナは、船着場に降りるなり頭上で照りつく太陽を忌々しそうに睨みつけた。隣に立つラギーは心なしか気まずそうな顔をしている。
     休日なので当然二人は私服なのだが、格好は至って平凡なものだった。レオナは黒のTシャツにヴィンテージ加工の入ったジーンズ、足元は学園でも履いているサンダルで、髪は一つに括り、日差し避けの為に被った獣人用のキャップとサングラス、それにいつものアクセサリーをジャラジャラと身につけている。財布と携帯はポケットに入れている為手ぶらだ。
     対してラギーもそう変わらない。少しサイズの大きめの白のTシャツにチノ素材の短パン、ローカットのスニーカーに、レオナから預かる財布を入れるための黒のボディバッグを斜めがけにしている。
     何ら普段と変わらないラフな格好である。学園から出発するため相手のコーディネートは朝から目にしているのだが、お互いの姿を見た時は、一瞬何とも言い難い空気が二人の間を漂っていた。
    「あれが移動遊園地ッスか?」
     ラギーが前方に広がるカラフルな一帯を指差した。
     ケイトがレトロな、と言っていたとおり、人気のテーマパークとは違った、どこかチープさの漂う乗り物や屋台が点在している。遠目からでもケバケバしい色をした観覧車やジェットコースターが目についた。
     そこを目指して歩けば、ポールで立てられたアーチ状のエントランスが出迎えてくる。ポップな書体で「Welcome!」と書かれたそれを潜ると、それほど広くは無い敷地内はそこそこの人で賑わっていた。主には周辺に住む親子連れや、若いカップルだろう。
     それらを横目に見つつ、物珍しそうに周りをキョロキョロするラギーに今更ながらレオナはこいつ遊園地来た事あるのか?と疑問に思った。
    「いや、来るのは初めてッス。そういえばバイトもした事無いッスね」
     ラギーは塗料の剥げかけた馬が回るメリーゴーランドを眺めながら呟いた。
    「勿論スラムにはこんなもの無いし。そう言うレオナさんはどうなんスか?」 
    「俺もねぇな。昔お忍びでどうぞと家族で招かれたことはあったが、家族サービスに巻き込まれるなんざごめんだと丁重に断った。その後も兄貴がしつこく俺にも来いと言ってきたんだが、結局当日は急な腹痛に見舞われて行かれなかったんだよ」
    「シシシッレオナさんて小さい時から変わんないッスね」
     仮病を使った事に悪びれた様子も無い口調に、僅かに帯びていた緊張が解れたように笑うラギーの笑顔を見て、少しレオナも肩の荷も楽になる。
     とりあえずは目立つ物から乗るのが良いだろうとジェットコースターに向かう。腐ってもマジフト部天才司令塔とディスクシーフの異名を持つ二人だ。凄まじいスピードで箒を乗り回すことに慣れているので、たかが遊園地のジェットコースターなど子供騙しだと高を括っていたのだが、終着後、ラギーはぐったりした顔色でよろよろと出口に向かって息をついた。
    「オレ…これ苦手かもしれないッス。古いからギシギシ音が酷えしガタガタ揺れるし、何より動きを自分でコントロールでないのが気持ち悪いッス…」
     そう呻くラギーの横で、同じくレオナも渋い顔をしている。自分で操縦する箒や自動車と違って年季の入った乗り物は予測不可能な挙動も多く、音や感覚に敏感な獣人には微妙な不快感があった。
     早々にアトラクションを諦めた二人はプラプラと屋台の方を冷やかしにいく。
     何か飲み物が売ってないか探している時、ふとラギーが一点を見つめて立ち止まった。簡素な屋台の中には様々な大きさの穴が空いた板が立てかけられており、手前にはカラフルなボールがカゴに入れられている。
     屋台の軒先に雑に紐で括り付けられているぬいぐるみ達を見るに、これは恐らく板に向かってボールを投げて、穴に入った数で景品が貰えるゲームなのだろう。
     ラギーが見ていたのは括り付けられたぬいぐるみのようだ。
    「欲しいのか」
     こんなもの腹の足しにもならないと笑い飛ばしそうなのに。まさかこいつがと思うが、案外初めてくる遊園地に浮かれているのかもしれない。
    「え?いや、そんなんじゃないッスよ」
     出た言葉は否定のそれだったが、大きな垂れ目は素直である。目線がぬいぐるみから外されないのを見て、レオナは財布をラギーに投げた。
    「良いんスか!?」
    「やってみろよ。レギュラー取ってるくせにノーコンで外したら承知しねぇからな」
     態とらしくマジフト部の部長の顔をしてそう言うと、ラギーはパッと顔を輝かせて財布からコインを一枚取り出した。
     屋台の前に座る年配の男に「これ!」とコインを突き出すと、男は「あいよ、じゃあ3回分ね」とボールを3個手渡してくる。
    「ボールが入った数で景品が決まるからね。ぬいぐるみは3回連続で入ればOKだよ」
     ラギーはボールを持って穴に狙いを定めると、Tシャツの袖から痩せた腕を伸ばして、振りかぶった。ボールは狙い通り板の真ん中辺りの穴に吸い込まれていく。
    「ヨシ!」
     小さくガッツポーズして、余裕の笑みで二球目に備える。同じようなフォームで投げられたボールは、今度は右横の穴にスポリとハマった。
    「上手いもんだねぇ野球でもやってんのかい?」
    「マジフトッスけど。障害も無いし動きもしないしこれくらい楽勝ッスよ」
     得意げな顔をしながら最後のボールを手に取ったラギーは、ペロリと舌で唇を舐めると、しかし目つきを一転させて板に意識を集中させた。その表情を見ていると、景品のために屋台のゲームに夢中になっていることに不思議な気持ちを覚えてくる。やるからには必ず報酬は得る、只働きだけは許せないラギーらしいとも言えるのだが、とはいえラギーはそんなにぬいぐるみが。
    「好きなのか」
    「え?」
     思わず口に出たレオナの言葉に、振りかぶったラギーの腕が若干ブレた。そのまま放たれたボールは狙いを僅かに逸れて穴のすぐ横に当たり、そのまま床に跳ねて転がった。
    「あー!!!」
    「おや。残念だね。はい、二回入ったから二等賞」
     呆然とするラギーをよそに、店主は脇に置いた袋から雑に飴玉を二つ寄越してくる。手のひらに飴を転がされたラギーは、食い物だと喜ぶ様子も無く、名残惜しげに軒下を見つめた。
     大きな耳をへたらせてあからさまにしょげた顔をされれば、流石にレオナの情も動く。力無く垂れ下がったハイエナの尻尾を見ながら溜息をつき、その背中に向かって「おい」と顎をしゃくった。
    「代われ」
    「え?レオナさんもやるんスか?」
    「欲しいんだろ?取ってやる」
     尊大な口調で告げれば驚いた顔をしたラギーが慌てて財布からコイン出した。店主からボールを受け取ったレオナは、さて、と穴の空いた板に目をやる。こんなもの、汗水垂らしてわざわざ正攻法でやる意味もない。店主は魔法も使え無いただの人間だ。僅かな魔力を帯びたボールに気づくこともないだろう。レオナは指先に少し力を込めると、薄らと魔力を注ぎ軽くボールを投げた。「あ!」と何かに気づいたようなラギーの声を無視して、正確に穴に入ったボールを見届けるとそのまま二球、三球と続ける。至極あっさりゲームをクリアしたレオナに何も気づいていない店主は感嘆をあげた。
    「いやーあんたも凄いねぇ。三回入ったから一等賞だよ。好きなぬいぐるみを選んで持ってきな」
    「だとよ。さっさと選べ」
     レオナが振り返ると物言いたげな顔をしたラギーが渋々前に出て、軒先に吊るされたぬいぐるみの中から一つを指差した。
    「じゃあ、これ」
    「このライオンでいいのかい?あいよ。男前の彼氏に取って貰ったんだから大事にしな」
    「は、か、かれし!?」
     突然の店主の発言にぬいぐるみを受け取りながらラギーは素っ頓狂な叫びを上げてしまった。驚きに目を見開いて顔を赤くしながらパクパクと音にならない声をあげていると、その様子におや?と店主が首を傾げる。
    「違うのかい?今日みたいな暑い日にわざわざ寂れた遊園地にくるのは親子かカップル位しかいないからなぁ。てっきり君達もそうなのかと思ったよ」
     ガハハと笑う店主は寛容な性格なのかレオナとラギーが男同士という事は頓着していないようだ。「そ、そッスか」とラギーはしどろもどろに受け取ったぬいぐるみをギュッと抱きしめて俯き、その後ろではレオナも何もいえずにそっぽを向いた。
     場の空気に耐えられずラギーが慌てて屋台から離れるのを、レオナは無言で着いていく。
     強い日差しの下、二人の間を生温い潮風が吹いた。
     
     ※※※
     もう遊園地は十分だろうと、二人は浜辺におり、波打ち際を目的もなく歩いた。遊泳が禁止されている浜辺は人も少なく、日が落ちかける夕暮れ時は海を青から赤へと染めていく。歩きながらぽつりぽつりと続いていた会話は、次第に言葉が途切れついに沈黙が横たわった。レオナは海に目を向けながら、先日のラギーが遊びに行きたいと言った時の表情や、今日一日遊園地でぎこちなくはしゃぐラギーの姿、先ほどの店主の言葉を反芻していた。ラギーからもこちらを意識しているのが伝わるのに、お互いに次の一手を決めあぐねている。
     波の音だけが響き渡る中、レオナが心の中で舌打ちをし、意を決して歩みを止めようとしたとき、少し後ろを歩いていたラギーが「あの!!」と声を荒げた。何事かと振り返えると、ドン!!と胸元に強い衝撃がぶつかった。見れば、レオナの胸の中に飛び込んで来たラギーが、ギラギラと鋭い目つきに眉を吊り上げ、まるで敵陣に挑むかのような顔つきでこちらを睨みつけている。そのまま、足にグッと力を入れて伸び上がると、鋭い牙をチラつかせたラギーの顔がレオナの目の前に広がった。殺気がビリビリ伝わってその唇がグワっと開かれると——
     「ちょっと待て」
     勢いに圧倒されたレオナは思わずラギーの首根っこを掴んでストップをかけてしまった。それにポカンとしたラギーは首を掴まれたまま数秒後、自分の状況を把握すると、途端に羞恥で顔を真っ赤にして手に持ったライオンのぬいぐるみを握り潰さんとばかりに力を込めながらギャンギャンと喚きたてた。
    「何で止めるんスか!今そういう雰囲気でしたよね!?」
    「いやまぁそうなんだが」
    「今日!!これ!!オレ達の初デートだったんですよね!?」
    「まぁ、そうなるな」
    「普通!一般的には!!デートの終わりには恋人とキ、キスするんじゃ無いんスか!?」
    「それは」
     間違っていない。
     今日は確かにレオナとラギーが恋人になって初めてのデートというやつだった。
     つい先日、想いを伝え合った二人は、しかし新しくできた“恋人”という関係をどう育てて行けば良いのか掴みあぐねていた。それまでの寮のボスとその右腕、雇用主と世話係、先輩と後輩というあくまで利害関係の一致で成り立っていた二人にとって、突如生まれた“恋人”という言葉は甘くて、こそばゆくて、なんだか気恥ずしさもあってお互いに“恋人らしいこと”もできずに持て余していたのである。
     結局ズルズルと今までと変わらない日々を送っていたところに、ラギーが一石を投じた意味を、レオナは違えずに受け取った。常であれば必ず埋めるバイトのシフトを空け、わざわざレオナに伝えたのはそういうことだ。レオナが敢えて何も言わずに出かけ先を探したのも、前日の夜、何を着ていくべきか迷い結局考えが一周回っていつもと変わらない服装になったのも、なんのオシャレもしていないお互いを微妙な顔で見ることになったのも、この暑い中わざわざ港までやってきたのも、耳や尻尾に絡みつくベタつく潮風に眉を顰めながらも決して文句は口にださなかったのも、店主の言葉を否定しなかったのも。
     全部は今日が二人にとって記念すべき初デートだからである。
     デートの終わりにはキスをするもの、という知識は間違ってはいない。世界中の恋人がそう思っているだろうし、ラギーだって、レオナだってそうだ。
     しかしレオナはこう見えてもう少しムードを大切にしたい男だった。先ほどの緊張のあまり殺気塗れでレオナの唇を噛みちぎらんとする勢いのラギーを見て、このままでは悲惨なことになると察したのだが、余裕の無いラギーはそんなことに気付いていないらしい。
     無意識にライオンの首をギリギリ締め上げながら「オレだって」とか「レオナさんの馬鹿」とか「そんな嫌だったんスか」などとボヤいている。その目尻りに薄ら浮かんだ涙をを見て、レオナは溜息を吐きかけて慌ててグッと飲み込んだ。お互い明確に言葉しないまま一日を過ごし、結果、最後の最後にラギーが空回ることになってしまった。恥をかかせてしまったのは多少罪悪感を覚えなくはないが、しかしまずはしなければならないことがある。ガリガリと頭をかくと、拗ねたように顔を背けるラギーに手を伸ばした。
    「おら、こっち向け」 
    「なんスか。レオナさんはオレとはキスもしなくないんでしょ」
    「そうは言ってねぇだろ。あのな、今日は…楽しかった」
    「へ?」
     突然告げられた言葉に思わずラギーがレオナを仰ぎ見れば夕日の光を吸い込んだ緑の瞳が真っ直ぐとラギーを見つめている。
    「この暑い中、外に出て子供騙しの遊園地なんざ碌でもねえと思ったが、ガキみたいに笑ったりなんだかんだ楽しそうにしてるお前といればまぁ悪いもんじゃ無かった」
    「レオナさん…」
    「お前はどうなんだよ」
    「オレ…オレだって、楽しかったッスよ。今日、遊園地に行こうって誘ってくれて、乗り物はちょっと想像してた感じと違ったけど、レオナさんも初めての場所に一緒に来れて嬉しかったッス。あの…だから今度は二人で相談してまたこうやってどこか出かけられたらなって」
     思うんスけど、と呟くラギーに、レオナは頭を撫でることで肯定した。素直な心情を吐露すればラギーもそれに応えてくれる。レオナの手に顔を寄せてシシシッ、と無邪気に笑うラギーを見ていると、ようやく二人の心が一緒になれた気がした。未だ気恥ずかしさは残るが、これからは恋人として一歩一歩歩調を合わせてゆけば良いのだ。
     世界が赤く染まる夕焼けの中、愛おしさにレオナが顔を近づけると、それに気づいたラギーが緊張した様子で、しかしゆっくりと目を瞑り、やがて二人の影が重なった。
     
     ※※※
    「あ!見て下さい!花火上がってるッスよ!」
     すっかり日も暮れ、船着場から船に乗って学園に帰ろうとした時。遊園地の方から打ち上げ花火が夜空に広がった。
    「つってもなんかショボいッスね」
    「あんだけ人が入ってなきゃしょうがねぇだろ。来年はまた来るか疑問だな」
    「ふーん。まぁある意味貴重な体験でしたね」
     甲板にでて空を仰ぐラギーは、疲れたのか少しぼんやりとしている。
    「次はどこに行きたいんだ」
    「えー、そうッスね。次はレオナさんの行きたいところはどうッスか?」
    「それでも良いがお前は興味ねぇとこばっかになるぜ」
    「レオナさん博物館とか好きそうッスもんね。でも良いッスよ。一緒だったらなんだかんだどこでも楽しいッスもん」
     花火を眺めながらそう言って笑うラギーに、レオナも「それもそうだな」と笑みを返した。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🎢💖🙏💖☺💖❤💖🙏💕💕💕💕☺😍💯💯☺☺☺👏🎢🎪🎡🎠☺☺👏💯💗💕☺☺☺☺☺💒💕💕💕💕👏👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works