真夜中の邂逅 ちょっと今日はもう無理かな、と思ったので資材や道具を片付けて、食堂へ向かう。
時計はてっぺんの少し手前。たまに誰かいて何か食べていたりするのだ。パンの残りを深夜に来る人間用に置いてあったりする。
実験は佳境を迎えており、脳の活動の低減は分かりつつも手が止められない、非合理的な状況に陥っていた。
結局それで深夜に食事をしようとしているし、これは胃もたれだとか、生活サイクルの乱れを生むわけで……。
ぼんやりと自責の念に駆られつつトボトボと向かった食堂の明かりがついている。
誰かいるようだ。物音と足音、椅子を引いてどさりと座ったようだ。
覗き込むと、最近やってきた白皙の大柄な男がいた。
ピンクの髪に緑の瞳、筋肉質でいかつい体つき。研究員とは真逆……と思いきや、明晰な頭脳の持ち主で砲撃の名手と聞いている。
「こんばんは」
「ああ、どうも」
彼はおざなりに挨拶してサンドイッチを齧る。もう一つのサラミを挟んだサンドイッチと、何やらパンだのコーヒーだのが彼の前に置かれていた。
「食えるもんはこれで全部だ。少し食うか」
「じゃあ、お言葉に甘えて……いや、何をしれっと食料を独占しているんですか? 一応みんなのものですからね、これ」
「いらねえなら食うぞ」
「わざと無視したでしょう……まあいいや」
お茶を淹れてから差し向かいに座って、何にしようかな、とぼんやりと考える。
適当にパンを手に取ってちぎって齧る。味気ないし、どうせなら朝まで待って筆ヵ谷さんと朝ごはんにした方が良かったなとも思う。
「デルウハ殿はどうなさったんですか」
「あ? 腹が減っただけだ」
「なるほど……フゥーーー……」
「研究所の奴だろ。こんな夜中まで何してんだ」
「ああ、検体の観察とレポートですね。今ちょっと難しい段階で」
「夜中までご苦労なこった」
そういえばこの人の今日の仕事はもう終わってるし、本当に食欲を満たしにきているだけなのだ。
「今の立場だとできることもあまりないもので」
例えば、この人が失脚すれば。所長が退任せざるを得なくなれば……。
「ハントレス隊はどうですか」
「俺の業務内容について知りたければ所長からレポートを取り寄せろ、残りは食っていいか?」
「え、夕食も食べたんですよね?」
「この筋肉保つには飯がいるんだよ。見りゃわかんだろ」
わからないしいささか横暴である。あの子供達の食糧も奪ったりしているんだろうか。
子供達に少しの同情を寄せていると、サンドイッチを食べ終えた彼がこちらをチラと見る。
「あんたは甘いもんのほうがいいんじゃないか。ホットチョコレートだとか」
「そんな貴重品はこんな夜中に簡単に手に入らないんですよ」
それが出てくるということは飲んだのだろうな、と思う。
おそらく食糧班が激励のために出したんだろう。
「それもそうか。俺は行くからあとは好きにしろ」
そうは言うものの、残っているのはパンが一つだけ。
明日の朝に出直そうか少し考えてから、一人きりの食堂でパンをかじった。