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    国軍時代のデルウハと高官のお話

    悪い噂 国軍の士官以上の者達が集まるパーティー会場でのことだった。
     不意に声をかけられて振り返る。
     
     背の高い筋肉質な白皙の男だった。
     やや見上げる形になる、こちらを見て社交辞令的に柔らかく微笑み胸に手を当てて恭しく一礼する姿は、そのいかつさに対して優美さすら感じさせた。
     ピンクの髪やグリーンの瞳を備えた整った顔貌がそうさせるのだろう。同性ながらつい見入ってしまうものがある。魅力的な男。
     アンドレア・デ=ルーハといったか。
     彼にはいささか悪い噂があった。
     
     仲間殺し。モンテローザの悪魔。
     作戦のスムーズな進行、保身、あらゆる理由で彼は仲間を手にかけると言う噂。
     甥が彼の部下にいて耳に入った下士官達の軽口だ。
     しかし、これだけ鍛えていれば斧の一振りで首を落とすくらいは容易かろうとそのフロックコートの下の太い二の腕をちらと見る。
     彼が飲み物を差し出すので受け取って口をつける。
     ここに毒でも入っていやしないかと少し不安になる。私がいなくなって彼にどんな利益があるか戯れに考える。
     「顔色がすぐれないようですが……」
     グラスを片手に心配気に覗き込む彼が仲間殺しをするのか、と少し噂が信じられなくもなる。そつのないコミュニケーション、仕草や物言いも完璧で、彼を善良な男と信じさせるに充分だった。
     「いや、問題ない。少し夜風に当たってくるよ」
     「ええ、お気をつけて」
     見送られて彼の前を去る。追ってきやしないだろうか、もし彼の方に動機があるとしても、ここで殺す理由もあるまい……。
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