うろんな落とし物 ある日のことだった。
外は荒天、待機という名目のほぼ自由時間。
部下の子供達が廊下で固まっているのを見て、デルウハは足を止めて覗き込む。
時間があったので検診をして終わった頃だろう。
「どうした」
「誰かの落とし物みたいなんだけど、これなんだろうって」
よみが手に持って見せてきたのは、正方形の薄いアルミパッケージである。大きい丸い陰影に瞬時に正体を悟って、こんなものを子供の目につくところにホイホイと落としたどこぞの職員に内心で舌打ちをする。
「ああ、心当たりがあるから俺が預かる」
「そう? これなんなの?」
「気にすんな。消耗品だ」
訝しげなよみの手からさっさと奪い取って懐にねじ込む。
ふーん? とあまり納得していない様子の子供達と次の作戦について少し話してから、足早にその場を立ち去る。
まだ興味を持つにはいささか早いだろうと思うが、自分があの年頃の頃はどうだったかと思い出そうとして、やめた。
夕方のことだ。
珍しいことに、部屋へ研究員と連れ立ってにこがやって来る。
「なんかあったか?」
「あのね、明日のことなんだけどぉ。ほら、今日時間があったから検診したじゃない? にこちょっと再検査になっちゃって……」
にこの後ろに禿頭にメガネの研究員がいて、レポートを見せてくる。
「ああ、大したことはないんです。細胞に少しの変異があって……血を操る能力の影響かと思われるのですが。念のため再検査することになりまして」
「明日はお前抜きってことか。哨戒とセンサーの点検だし大丈夫だろ」
作戦内容のメモを出そうと懐に手を差し入れて、指先にあたった薄いそれを引き抜いて示す。
さっきの拾い物だった。
ひっ、と研究員が悲鳴を上げたので、冷静を装ってゴミ箱に放り込み、何もなかったようにメモを取り出す。
「何? さっきの落とし物まだ持ってたの~? っていうか捨てていいの……?」
「消耗品だから落とし主を探すこともないなと思ってな。処分しようとしてたのを忘れてたんだ。お前だって落とした絆創膏だのティッシュだのわざわざ探して渡されても困るだろ。事情は分かったから飯食って寝ろ」
「ねえ、あれなんなの~? 所長に聞いても青くなっちゃうしさあ」
「聞くんじゃねえよ……」
ゴミ箱とにこの間に立って間違っても拾わないように動線を切りつつ部屋を出るように促すと、不満げなにこだけが部屋を出ていく。
残った研究員に、あの、と顔を青くして手招きされるので、耳を寄せてやるとヒソヒソと、震えた声で囁く。
「あの、本当にあなたのものではないんですよね……?」
「はあ? おぞましい想像をするんじゃねえよ、使うわけねえだろうが!」
「つ、使わない……」
「ガキ相手に勃つわけねえだろっつってんだよアホ! さっさと行け!」
本当ですよね? と何度も念押しされるのでほとんど追い立てるように部屋から出す。
1人になってやっと一息つく。落としたのはどこのバカだ、全く。