じゃじゃ馬と跳ね馬 おっきくて厚い体に高~い背丈、彫刻って言うと大袈裟だけど、うちの旦那様はスタイルが良いのだ。
なんだって似合うしなんだって着こなしちゃう。
ピンクの髪と白い肌はちょっとクセがありそうで意外とどうとでもなっちゃうものなのだ。着せ替え甲斐があるでしょう?
◇◇◇
たまには服を新調しましょ、と言って紳士服のお店に来る。
掘り出し物の中古品から、最近作られた既製品まで揃ってるのでちょっと広い。
「俺は着られて動きやすければなんでもいい」
ぶっきらぼうにそう言ってちょっと不満げ。せっかくちょっといいワンピースでおしゃれしたにこの隣に、テキトーな格好で立つつもり?
「なんでもいいなら私に合わせてくれてもいいでしょ?」
「動きやすいのがいいっつってるだろうが」
「はいはい」
手を引っ張ってお店の奥へ。
「日本人が着ないような派手なのも似合うのよね~」
真っ赤なジャケット、縞々のスーツを当ててみて一人で笑ってると、げんなりした顔をする。自分で選ぶとすごくシンプルで動きやすいものばっかり選ぶからいけない。
「ネイビーは? ほら、夜桜みたいでかっこよくない?」
今日は黒いシャツだからどうかなと思ったけど、ネイビーのジャケットを当ててみるとよく似合ってるからこれは買い。
めんどくさそうな顔にネクタイとかシャツなんかをどんどんあてがって。
ちょっとかわいい色でもなんとかなってしまうから面白い。
なんだろう、昔ビデオで見たお笑い芸人みたいなテカテカのスーツでも「こういう服なんだ」と納得させられる変な説得力があった。
羽織るものを漁っていると、懐かしいカラーリングのものがあって思わず声を出す。
「あっ、ねえこれ着てよ!」
硬い生地のジャージだ、オレンジのワンポイントが入ってて、昔の隊服に少し似てる。
「お前なあ……行きたいとこがあるんだろ、その辺にしとけ」
「ちぇ〜」
せっかくなので羽織って見せて、あざといポーズをして見上げてみる。
「どうどう? 懐かしくない?」
すっごい嫌そうな顔をして、顎をしゃくって脱げのポーズ。
別にベッドで子供みたいなマネをしたわけでもないのに、そんな顔しなくてもよくない!?
◇◇◇
私が選んだネイビーのジャケットをちゃんと羽織って、腕を組んで歩いてくれるのでご機嫌だ。今日の目的は映画だ。最近できたっていうのでせっかくだから行ってみるのだ。何を上映しているのかもわからないから楽しみだ。
「なんだかんだ言って着てくれるんだよね〜」
「別に……」
「にこに着せたい服とかないの?」
「あると思うか?」
「なさそー」
あはは、と声に出して笑って。
一緒に見た映画の女の子のドレスや普段着を思い出す。
「女の子が生まれたらペアルックとかしたいな〜。にこと娘でお姫様にしてー、デルウハは王子様か王様みたいな格好するの。楽しそ〜」
「……みちあたりが乗り気になりそうだな」
「あは。お姫様二人でほっぺにチューしてあげる」
「両手にじゃじゃ馬か、手に負えんな」
「は〜? ちょっと聞き捨てならないんですけど」
えいえいとつっつくと面倒くさそうにする。
この人がパパになったら、絶対に子供と二人でパパを着せ替え人形にしてやるのだ。