歌う星々の群れ 天は星辰とほっそりとした三日月、地上を見れば黒々と蠢く海原があった。
潮騒はやかましく、明日は風が強いのだろう、星はシンチレーションでもって瞬きを見せている。
夏の夜だ。半袖から伸びる腕はどちらもじっとりと汗ばんでおり、時折物の拍子で肌が触れては湿り気を帯びていた。
デルウハとにこは自宅から歩いて20分ほどの海にいるのである。
なぜここにいるかといえば、流星を見に来たのであった。
レジャーシートを敷いて2人で並んで横たわり、持ってきたランタンの灯りを消して、手の届く場所に懐中電灯。
「星、好きなんだっけ」
「いや、別に。ラジオで今日が極大だって言ってたのを聞いただけだ」
「きょくだい?」
「一番流星が多いとされる日だな」
「ふうん……どこ見てればいいの?」
「どこでもいい。放射点つって中心みたいなのはあのあたりだな。眠くなったら寝てろ」
空の1点を指差すのを見て、何を目印にしているんだろうと思いつつその辺りを見る。
「起きてるわよ」
潮騒に反抗するように少し声を張って話す。
暗闇に手を伸ばして、これだけ明かりがなくても案外見える物だな、とにこは少し意外に思っていた。
とはいえあまりに暗いし、いささかの不安があって隣の男の手を手探りで探して指を絡める。握り返すでもないが、抵抗もされなかった。
そのうち、光の線が走るのを見つけて声を上げる。
「初めて見たか?」
「そう言うわけじゃないけど。当たり前だけどさ、静かなのよね。なんか……なんだろ、映像みたいな感じ?」
「そうか」
しばしの沈黙があり、潮騒を聞きながら時折星の流れるのを眺める。
絡めていた指はなんとなく離して、自分の腹の上に乗せていた。
「流れ星が消える前に3回願い事が言えたら叶うって聞いたことある?」
不意に思い出した言い伝えをポツリと漏らす。
「なんだ、日本まで伝わってんのか。元々キリスト教の言い伝えだぞ」
「そうなんだ」
「俺も詳しくはないが」
そっか、と呟いて、また手探りで指を繋ぐ。おざなりに彼の指先が応える。
「こうして見てると結構ちかちかしてるのね。あんまりちゃんと見ないから」
「シンチレーションか? 大気の揺らぎで星の光が揺れて見えるんだ。上空に強い風が吹いていて、そのせいでああやって見える」
「ロマンがないわね~……歌ってるみたいね。なんだっけ、きらきら光る……」
「モーツァルト?」
「なんの話?」
「いや……冷えてきたな、そろそろ帰るか」
「もういいの?」
「少し眠い」
「そうね~……」
言われてみれば、と絡めていた指を離して、浅いあくびをして起き上がる。
レジャーシートを2人で畳んでうっすらとした眠気を振り払うように片付けて、デルウハがレジャーシートを抱えるのでにこが懐中電灯で2人の足元を照らす。
黒々とした水面と、ごく薄く明るい星を湛える夜空の曖昧な境界に2人でなんとはなしに目を向けた。
にこがくしゃみをするまでその潮騒を聞きながら佇んで、デルウハが「帰ろう」と呟くので家路につくのであった。