夢の汀で 恋人が化け物になる夢を見た。
室内灯の光が揺れる部屋、ベッドの上に正座する彼女の顔は黒々しい筒状になっていて太く大きい、顔という顔はすっかり失われていてなんだか凸凹しているし、輪っかがついてその中から舌に似たものがべろりと出ている。
これは奇妙だ、彼女はサラサラした髪に気の強い顔をした美人だったはずだが。
ただ、腕は今まで通りの白くたおやかなそれでマニキュアなどしている。
服はお気に入りのニットだったがすっかり襟が伸びてしまっていた。
袖口から見える手は僕のよく知るそれであったが。
ただ、口があの通りなので言葉は交わせない。
その変わらない柔らかい手のひらを上に向けて伸べてくるので差し出すと、僕の手を受け取って片手の指を手のひらに這わせる。
字を書いているのがわかった。ゆっくりと、一文字ずつ。一体何を書いているのか判然としなかったが、指先が震えていて、なんだか辛そうに思えた。
「……大丈夫だよ、きっとなんとかなるさ」
そうだ、これは夢だもの。
すぐに目が覚めて、よく知る君が隣であくびをしているに違いないのだ。
「とりあえず寝ようよ、きっとそれでいいはずだからさ」
耳は見当たらないが聞こえているんだろうか。
腕を伸べてくるのでそっと抱き返す。背中はよく知ってるそれなのに頭の方は固くてタイヤか何かみたいだった。
何、夢にしてはなんだかリアルだが目が覚めさえすれば全部終わってることだもの。
おやすみを言って自分の布団に入る。
彼女が明かりを消して部屋が真っ暗になる。
おかしなことに、あれからずっと夢から醒めないままなのだが。