万聖節後夜 ハロウィン、あるいは万聖節。
母国ではどうだったかとずいぶん遠い記憶を手繰り寄せつつ、この国ではクリスマス同様に乱痴気騒ぎをするための大義名分のようなもの、というのがデルウハの認識であった。
ともあれ冬の気配のするその頃、妻の姉妹のような女から届いた荷物を開ける。
今度はあんたのもあるから、と渡された薄い箱である。
毎年みちから届く衣装を着ては写真を撮って、1枚はアルバムに、1枚はみちに送るのが風物詩になっている。であったのだが、今年はそれに巻き込まれたようだった。
赤いベルベット調の生地に金糸の刺繍、肩のモール飾りまである。大ぶりで装飾過剰な留め具のついた詰め襟に黒のペリース、ズボンの方は白1色だったが、とにかくゴテゴテと装飾過多でまったく意図がわからない。
式典に出るどこぞの王族か何かの衣装を模したものに見えたが。
持ち上げて訝しんでいると、まだ? などと妻子に外から尋ねられる始末である。
「いや、なんだこれ」
「それ着て3人で写真撮るの! みちの力作よ~」
力作、ねえ。結婚式の衣装もみちが作った。あれはシンプルなタキシードだったが。結婚式の頃とさほど寸法は変わっていないはずだがサイズが合わなかったらどうするつもりだ、と思いつつ、女2人の催促にうんざりしてため息を吐く。
下で待ってろ、と声を張ると、これまた2人揃ってはぁい、と言ってそのうち階段を降りていった。
◇◇◇
ボタンも留め具も多くてうんざりしながら着替えると、思った通り動きにくいし目がチカチカして視界の邪魔だった。
箱の底に軍帽のようなものまで入っていてこれまたうんざりする。
姿見の前に立って、しかしながらサイズが合っていることに改めてゾッとする。にこは採寸していない、触って確かめたのか?
これにスリッパを履けというのか、せめて革靴、と思ったが、家の中で靴を履くことに抵抗を持つようになっている自分に気がついて神妙な心境になった。
すっかり慣れちまったもんだな、と。
終わった? とノックもせずにドアノブをひねるのは娘だった。
この部屋は子供が触るとまずいものが多いので、いつも鍵をかけている。
「終わった」
鍵を開けて中に入る前に抱き上げてしまうと、娘の方もずいぶんヒラヒラした服を着せられている。
サテンピンクに花の飾りがついているもので、今まで通りならにこも似たようなのを着ているはずだった。
「なんだ、お前はドレスか」
「パパは王子さまだって~」
「じゃあママは女王様か?」
わかんない、と首を傾げて困惑するので適当に褒めておくと機嫌を直す。
この写真を撮ってみちに送るのはもう諦めるとして、まず現像に写真屋に出すのがすでに気が滅入るものである。
リビングに降りると、同じようなドレスのにこがいて三脚にカメラをセットしてソファで待ち構えている。
「なんでお前が端にいるんだ」
「パパは真ん中ね!さっちゃんはそっち」
娘にティアラをつけてやって、自分は立ち上がるとカメラのタイマーを設定して戻ってくる。
仕方ないので中央に座っていると、戻ってきたに子が腕を掴んで、ほおに顔を寄せてくるのを避けそびれたし、両側からキスなどされて顔を顰めるのであった。
この写真がどこからか知らないが地元に出回って、しばらく奇異の目線で見られる羽目になったのは後の話である。