お前もぬいぐるみにしてやろうか 「あんた、よく見ると可愛いね」
そう言って末のハントレスのむつの頬を両手で包むのを、4人の少女達はいささかの驚きと呆れをもって見た。
仕事の待機時間、漠然と6人で広間に集まっていた時のことである。
「み、みちちゃん?」
「丸っこくてもちもちしてるし、目は大きい。おどおどして猫背だからよくわかんなかった」
構われた嬉しさとあまりの唐突さに呆然とする彼女の頬を撫で回して、うんうんと何度か頷く。
「時間あるわね?」
「えっと」
「待機時間だし、あるでしょう」
いちこである。前後はよくわかっていなかったが、むつの返答を奪う形で答える。
立ち上がって、来て、とむつの手を強引に引いて広間を出ていくのを4人はやはり呆然と見送るのであった。
◇◇◇
連れて行かれたのはみちの自室であった。
所狭しと置かれたぬいぐるみがあり、視線を感じるほどである。
座って、とベッドに腰掛けたむつをまじまじと見ながら取り出したスケッチブックに鉛筆で何やらサラサラと書き込むのを、むつはしばし所在なげに眺める。
鉛筆の滑る音のためらいのなさ、穴が空くほどにじっくりと見られる緊張に居た堪れなくなる。
「何描いてるの?」
「あんたを人形にするから、その下絵」
「恥ずかしいよ……」
「だって可愛いから」
「理由になってないよ」
以降返答はなく、立って、だとか回って、といった指示に従うばかりである。
さりさりと描いてはパラパラとスケッチブックを捲る音を聞きつつ、部屋の中のぬいぐるみを見回す。
よし、と満足げに首肯するみちに安堵したところである。
「も、もういいの?」
「あとは勝手に見るから」
「やだよ……」
「お礼にこの中からひとつあげるわ」
話が通じないことに愕然としたが、これとこれはダメ、と指差すのを必死で追う。
じゃあ、と懊悩しつつ選ぶのを見て、みちがその顔も可愛い、とつぶやく。
またスケッチを始めるのでやむなくむつは適当に引き抜いたぬいぐるみを抱えてベッドに座る。
結局、待機終了の点呼に来ない2人を叱りにやってきたいちこが声をかけるまで続いたのであった。