神とて知らぬもの 神々の山嶺、と呼ばれる山脈があった。
冬には氷雪に閉ざされる急峻の山並みは麓の、ひいては山中の人々の畏敬を集め、やがてひとりの男神、デルウハを成した。麓に流れついた異国の人間の言葉で名付けられ、稀に見られる容姿も薄紅の髪に薄荷色の瞳と伝えられた。
小さな社も建ち、実りを供えられ祈りを捧げられた。
山々への信仰は篤く、時と共に信者達はおかしな勘違いをするようになったのであるが。
ある日のことである。供物が途絶えて久しい頃、漫然と過ごしていたある日のこと。
己に向けられた言葉のうち、苛立ちと悲嘆と……やけっぱちの願いを聞き入れて顕現したのである。
赤茶の髪の娘だった。歳の頃は十歳ほど。痩せた体つき、絹の服になけなしといった有様の装飾をされて、手足を縛られ少し見ぬうちに荒れ果てた社殿に転がされて現われた男神を睨みつけているのであった。
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