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    モブ子視点の婚約者殿に馴れ初めを聞くらくがき。

    なれそめ 夕方遅く、小走りで集落のはずれのプレハブ小屋の前にやってきて鍵を開ける。夏の終わりに差し掛かって日は多少短くなっており、二十時も過ぎればもう真っ暗だ。
     まだこのあたりは変な人も多いので明るいうちに来たかったのだけどご近所さんに捕まって遅れてしまった。
     コミュニティの人間だけが鍵を配られて使える常備薬や消耗品を置いた小屋だ。いわゆる無人の薬局。窓は無くて表向きは倉庫ということにしてある。最近は薬品もたくさん届くようになって本当にありがたい。
     中に入って電気のスイッチを点ける。青白い蛍光灯に照らされた壁を覆うスチール棚に並んだ常備薬を、必要なだけ持ってきた袋に入れていると鍵の開く音がして肩が跳ねる。
     そちらを見ると、最近見慣れたピンクの頭の大柄な男性がこちらに気がついて会釈をして少しドアを開けたまま入ってくる。半袖のシャツにカーゴパンツで、袖から伸びている二の腕は太くて筋肉でゴツゴツとしている。
     「どうも」
     「こんばんは、デルウハさん」
     八畳のプレハブに大柄な彼が立つと少し手狭だ。絆創膏と頭痛薬を袋に詰めて、じゃあ、と出ようとすると軽く手を上げて引き止められる。
     「もう暗いし方向も同じだから送る。外で待っててください」
     申し出は正直ありがたい。女が独り歩きする時間ではないのだ。でも、彼の婚約者で後輩でもあるにこちゃんに悪いのではないだろうか……?
     彼女とは友好的な関係であったし、不安の種になるようなことは避けたかった。
     「にこならあなたを一人で帰すことに怒るはずだ。お気になさらず」
     不安が顔に出ていたようで、彼の言葉に納得して首肯する。
     何を取っているか見ないように、外の壁にもたれて彼が出てくるのを待つ。
     さほど経たないうちにパチンと電気を消す音がして出てきて鍵を閉める。
     鈴虫の声が辺りを包む夜の闇はやはり恐ろしく、本当に助かったと安心する。まばらに並ぶ街灯の下を歩き出す。
     「すみません、ありがとうございます」
     「いや、どうせ通りがかりなので」
     少し距離を空けて並んで歩くが、横目に見る体の厚み、服を押し上げる筋肉はなかなか見ない立派なもので何度見ても感心してしまう。
     年齢は同じか彼の方が少し上だろう、結構よく鍛えているんじゃないだろうか。
     にこちゃんと彼が並んでいると、体格の違いに色々と良からぬことを勝手に考えてしまうのでちょっぴり申し訳ない。
     大きな肩掛けのバッグに何を入れたんだろう……あそこにはコンドームもあるし、いや、にこちゃんは子供が欲しいってよく言っているから使わないのかな……。
     「この辺りはまだおかしいのもいるから日が暮れてからは出歩かんほうがいい」
     不意に声をかけられて顔を上げる。フラットで特に感情のないグリーンの瞳がこちらを見ていて恐縮する。そう、全くもって彼の言うとおりなのだ。
     「はい……でも最近ずいぶん減ったんですよ。デルウハさんが来る前には乱暴されて殺された女の子なんかもいて……。最近は物取りは出ますけどそう言う話はほとんど聞かなくなったし」
     にこちゃんを留守番させてるのにこんなこと言っちゃダメかな、とちょっと失敗したかもと思ったけれど彼は気にした様子もない。
     治安なんてどこも同じようなものなのかな。
     
     それきり訪れた沈黙に耐えかねて、前々から気になっていたことを聞いてみることにする。
     「ところで、にこちゃんとの馴れ初めって聞いてもいいですか……?」
     わずかな間の後、そんなことを? と苦笑して彼が問うので首肯する。
     「ええ、七年ぐらい前までにこの出身地でイペリットの防衛をしていて、にこはそこで雑用をしてる子供だったんです。当時の彼女は十五かそこらだったからもちろん何もありませんよ」
     よそ行きの笑顔で薄く笑って見せて、ここまではにこちゃんに聞いてた話と同じだな、と思いつつ相槌を打つ。
     「それからにこがそこを出て、仲間の二十歳の祝いに戻ってきた時に再会して少し話したらずいぶん大人になっていて驚きましたね。ここのコミュニティできちんと育ててもらったのだなと感心したものです」
     うんうん、二十歳でファーストキスだったと聞いてるけどさすがに私には言わないのね。
     「それからしばらく離れていたのですが、今年の夏に再会しまして……家族が欲しいという話を聞いて、私もいい歳ですし……まだ治安も悪いですからね、一緒に暮らさないかという彼女の提案で二人で家庭を持つことにしたんです」
     にこちゃんは初恋の人と再会するかもなんて浮かれて行ってきたと思ったら、帰ってきて有給をありったけ使って探し回っていたのだけど一体その二十歳の時に何があったのだろう。
     多分聞かない方がいいんだろうなあ、と思いながら「わあ! ロマンチックですね!」と手を叩く。
     
     そうこうしているうちににこちゃんの家に着くと彼がドアの鍵を開けてにこちゃんが顔を出す。
     デルウハさんが指で私を差すのでこちらに気がついて名前を呼ばれるので、送ってもらったのと答える。気を悪くした様子がなくてホッとする。
     にこちゃんがつっかけを履いて出てくると三人ですぐそばの私の家の前まで来て立ち話をして、おやすみを言ってお別れだ。

     背は高いけど薄いにこちゃんの背中と分厚いデルウハさんが並ぶと美女と野獣みたいだ。
     見送りながら、するりと慣れた仕草で腕を絡めて笑うのを見て幸せそうでよかったな〜、と改めてほっこりする。
     
     お幸せにね、にこちゃん。
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