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    冬籠り/Emergency

    @fuyu_gomo_ri

    ロルコレ後夜祭withロルパ!さま 開催ありがとうございます!
    冬籠りの展示小説置き場です。

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    冬籠り/Emergency

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    展示②「深愛」 (過去作品の加筆修正版)
    原作の未来軸、ルフィの死、未来のローのif設定があります。

    深愛 自身の船を潜水艇にしたのは正しかったと思う。
    頻繁なメンテナンスやそれに掛かる費用を踏まえても、海上の照りつけに当てられ続けるような航海は御免だった。また海中の恐ろしさをはらんだ暗さと静けさ、規則正しい機械音の中では、多少、深く眠ることもできる。

    あの騒々しさのかたまりのような男には似合わないのだろう。




     ある島で約400年に一度見られるという大流星群を見た。
    ただの流星群では無く、本当にこの島に落ちてくるような距離で掠めていく星々は、もはや災害では無いかと思うほどで、住人や観光客、おれ達も含めて島の全員が、星が掠めそうな海岸の反対側に船を出し、その光景を眺めていた。

    「うおーー!!!どうなってるんだ!?なんで島に当たらないんだ!!?」

    「確かにっっ!!当たらないのも不思議だけど!それよりもなんで島ギリギリに落ちて見えるのに、海にはなんの変化もないのよ!!」

     奴は自身のクルー達に、400年後にまたこよう!!などと言っているが、人間はそんなにこの世にしがみつけないし、ましてや今の時点で既にお前はそう長くはない。そこは人として死んでおこうな〜と、謎の説得をする船員を横目に、図体に反して気絶した白熊を介抱するためにおれは船内へと戻った。


     「お前が先に死んだら、お前の心臓を貰う」

     それは戯れに口から出た、突発的な言葉だった。

    「心臓?そんなの貰ってどうするんだ?」
    「……例えば、こうやって保存するとか?」

     丁度、最近解剖し終えた奇妙な抗体を持つ蛙のホルマリン漬けを懐から出し、麦わら屋に持たせる。

    「生きてんのかこれ!」
    「馬鹿、死んでるよ。こうやってホルマリンという液に漬けて置くと、漬けた時点の形をそのままに保存できる」
    「へ〜……ほ、ほる?何とかってあれか、不思議水なのか」

     麦わら屋はよくわからない納得をしたようだ、本題はそこじゃないが。

    「その代わり、おれがもし先に死んだらお前が欲しい物、ひとつくれてやる」
    「えぇ〜?ねぇよ、そんなもん」

     そう即答した麦わら屋はなんだか面倒臭くなってきたようで、しかしおれもなんだか引くに引けなくなっていた。

    「このままだとフェアじゃねぇ、なんか考えろ」
    「考えろって…トラ男んとこのクマは欲しいけどなんか違うし…あっ!」
    「?」
    「じゃあさ、おれが死んだら会いに来てくれよ!でっかい肉!!持って来てくれ!!」
    「いや、お前じゃなくおれが先に死んだらの話をしてるんだが……」
    「うん?そうか?」

    その後、じゃあトラ男の船の肉貰うとかウチの船は基本米と魚しか常備してないとか、しょうもない会話を続けた気がするがよく覚えていない。


     麦わら屋を好きか嫌いかで定義するなら、死後、自身の物を好きに持ちだしても良いほどには“好き”なのだろう。だからこそ当初の同盟計画が終わった後でもこうして偶につるむ様な関係なのだ。期待もしていたし何処かこの奇妙な関係が落ち着いていた。ただしおれが胃潰瘍で死なない範囲の付き合いという前提で。

     あの流星群を見て以来、何度か会ったりもしたが、彼が海賊王になったという知らせを聞いた以降、ぱったりと関係が途絶えている。



     新たな海の王が死んだと聞いたのは、奴のクルーからの電話だった。

    「ルフィがトラ男くんにあげたいものがあると言ってたの」

     それが何だか直ぐにはピンとこなかったが、自分の心臓、って言ってたと思うの、とまだ心情が安定していないのか不安定な声で話す航海士の言葉で、あの日の気紛れを思い出した。
     奴は自分の心臓を“ホール焼き詰め”だか何だかにしてトラ男にやってくれ、と言ったらしいが(最後まで呆れた奴)、流石に難解で確信が持てなかったため連絡したそうだ。
     遺体は火葬にして遺灰を海に撒くことにするとクルー全員が一致した様で、静かに眠る麦わら屋の心臓をもし取り出すなら今しかないということだった。

    「心臓はいらねぇ。そのまま身体と一緒に海に還してやれ。」

     そう言って電話を切った。
     麦わら屋の死を受け入れていくのと同時に、奴の心臓など、冷めるように興味も価値も無くなっていったのだ。

     もう会うことのないかつての同盟相手に思いを馳せる間も無いまま、自身のクルーに潜水の指示を出すべく、薬剤が微かに香る部屋を出た。




     時代が変わると共に自身の環境も変わる。
     かつて死の外科医と恐れられていた男は、辺境と呼ばれるに近しい場所にて、医療従事者としてこの島唯一の医院を営んでいた。海賊からは足を洗ったが、稀に現れるかつての同業者達に対しては、これまたかつての同胞たちと共に、島の用心棒という名を借りての暇潰し兼、物資の拝借などを行なっている。

     今日はそんな輩も来ず患者も少なかった為、早めに切り上げて一人医院での雑務を淡々とこなしていた。

     ふと上げた視線の先に、小さな麻織の袋を見た。

     それは、心臓の代わりだと言って彼の胸骨であったであろう部分の遺灰を、情が過ぎるあの船の船医が送りつけてきた物だった。その日は海上を航行していて、潜水時による自動受け取り拒否が出来なかったので送り返そうとも思ったが、既に麦わらの一味の消息は誰も知らず、また捨てることもできず、未だここにある。


     ハリケーンが近くを通るそうだ。
     なんとも世界中で一番当たると有名な気象予報士が、この辺境を通った際に教えてくれたとのこと。数日前から町が急に慌ただしくなり、自身も医院の補強や医療物資の確認などの指示を出し、その日を待ち構えていた。窓を叩きつける様な風も出てきた。予報士が言うには、島自体に上陸することはないとの事だが、いかんせんこの島では初めての事で緊張が走る。

     一際強い風が吹いた。

     換気のため少し開けていた窓から、窓際に置いてあった麻織の灰が舞っていく。あれは海の方向だった。急いで窓を閉め、袋の紐をきつく縛り引き出しへと仕舞う。
     ハリケーンの本格的な到来を感じた腹心の元航海士の声により、再度院内の体制を整え、町の各々へと連絡を取り合う。全員が一息つく頃には夜も更けていた。ハッと思い出し、引き出しにしまった小袋を取り出して中身を確認する。
     そこには少し減っただろうが、ルフィの遺灰がちゃんと残っていた。椅子に腰を落ち着け、しかし口から漏れたのは安堵のため息だけでは無く、焦りも含んでいた事に動揺する。

     そんなにも自分にとって大事なものだったのか?ただ少し飛んでいっただけで。ましてやこれは麦わら屋の残骸の一部であって、魂など宿ってもいないと言うのに。

     それからハリケーンは多少の被害をもたらしながらも、島の約数キロ先を通過していき、無事予報通り島に上陸することはなかった。
     その後、あの小さな袋は窓際に戻ることはなく、引き出しの中で眠っている。



     あれ以来少し目の隈を濃くした男は、浜辺に座り海を見ていた。穏やかに寄せては返す波は、反射して煌めく光を自身に容赦なく返して来る。目を細めながら、あの日の灰の行方について考えていた。
     海の方角への風に乗ったのならば、無事ここまで届いたかもしれない。元々、さっさと海へ撒く予定だったのだ。だが、いざとなるとどうすれば良いのか分からなくなっていた。光の眩しさにキャスケットを日除けにして寝転ぶ。そのまま目を閉じようとした時、ふっと彼の言葉がよぎった。

     “じゃあさ、おれが死んだら会いに来てくれよ!”

     何処へ行けば良いと言うのだ。

     確か、義兄である火拳屋の墓が何処かの島にあると聞いたから、その兄の隣におそらくお前の墓があるのだろう。

     だがおれはお前がそこにいるとは思えない。

     お前は何処にいるんだ?何処に行けば会える?

     海賊の魂が眠るという、この目の前の海か?

     ……海、そう呟くとあの無邪気な笑顔が波の煌めきと重なった。
     本当は勝手に永遠だと思い込んでいた、今は亡き存在。

     その光を、今確かに身体が感じていた。



     

     深く暗い海中はとても静かだ。島の流行病の時期が終わり、多忙から明けたある日の朝、久し振りの機械音に包まれながら人工的な光しか点さないほどの深淵へ潜っていく。途中、魚や海王類たちが何処へ行くのだと言うようにこちらを振り返る。

     この海の王に会いに行くのさ。なんて、言ってもわからないだろうなと皮肉めいた笑みで見送りさらに男は沈んでいく。規則正しく鳴る機械音と静寂に、眠気は訪れない。
     海賊の王、即ち海の支配者と言うのならこの深海だってあの男の物だろう。彼はそれを支配では無く自由と呼んでいたし、乗る船だって海上に反射する太陽のような眩しいものだったが。

     まだまだこの海はお前のものだよ。
     片手で以前より小さくなった袋を弄びながら心の中で呟く。

     徐々に軋んでいく潜水艇の中で、できるだけの能力を展開し、入れ替える。片手にあった重みが消え、代わりに冷たい水が掌からこぼれ落ちた。それは部屋のランプに照らされて、キラキラと光る。

     その光景が、何だかとても懐かしく、眩しくて、満たされる。

     おれ達には天国も地獄も無い。
     海賊の魂は海の底に眠るから。

     いつか自分もそこにいくのだと、予想通り短命だった彼に、また想定外に長生きしてしまった自身に。

     浮かぶ騒々しい記憶たちと懐かしい笑い声を微かに感じながら、祈るようにゆっくりと、潜水艇は浮上していった。











































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