Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    みぞれ

    R18作品のパスワードの質問は『18歳以上ですか?(日本語)』です。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🎃
    POIPOI 5

    みぞれ

    ☆quiet follow

    twstにょたゆりイデケイ(2023.3.26)

    ペニバンぶん投げるにょたデが見たくて書いた話 君って同性愛者なの?
     他人の性的指向なんて本当はどうでもよかったのだが、いつ見てもクラスの男子と楽しそうに喋っているパリピに告白されて、ついそう聞いてしまったのだ。
     そのときは「ん〜、そういうわけでもないけど」と一応は否定をされたから、よくある“今好きなのは女のイデアくんだけど”くらいの意味で受け取っていた。
     だから興味の延長だった。
     男性器というものは女の体――あけすけに言うと膣に快感を与える形をしている。ケイトがイデアとのセックスに不満を言ってきたわけではないが、ペニスがあれば女の指より気持ちよくできるのではないかと思ったのだ。
     “そういうもの”が専門のサイトでポチっとしたのは二日前。いかにも生活用品風の梱包で届いたそれを、イデアはニヤニヤしながらベッドの下に隠した。
     そしてその夜、「じゃーん!ケイト氏、今日はこれ試そ?」と取り出した瞬間、イデアの腹の上でスマホをいじっていたケイトは、予想に反して明らかに顔をこわばらせた。
    「あ……、ごめ、オレ……」
     いつもの語尾を跳ね上げたような喋り方ではなかった。浅い呼吸の合間に絞り出すような声。
     薔薇の幼葉のような瞳に膜が張った。イデアも片方の頬をつり上げたまま固まっていたが、その涙の膜が大きな粒となってイデアのタンクトップの色を変えた瞬間、持っていたペニバン――正式名称ペニスバンド。体に装着するバンドにペニスを模したシリコンがついているアダルトグッズだ――を壁にぶつけるほど強く投げ捨てた。
    「サササ、サーセン……!陰キャが調子に乗りました……!え、うそ、ケイト氏ほんとに泣いて……!?」
     イデアは慌ててケイトの涙を拭ったが、ごめ、イデアくん、ごめんね、と繰り返すケイトは青ざめたままだ。あ、あ、どうしよ、と普段は天才を豪語する頭も完全にショートして、もともと血の巡りのよくない顔からさらに血の気が失せていく。
     これでも好きな人は大切にしたい派だった。自分のもとから逃げるという選択肢が生まれないくらい甘やかしたかった。泣かせるなんて言語道断。嫌いにならないで、と思った瞬間、イデアも泣きたくなった。
    「……っ、ごめんね、イデアくん。オレが言ってなかったのが、悪かったね」
     いつの間にかイデアはケイトを力いっぱい抱きしめていて、その腕の中でケイトが小さく身じろいだ。ぐず、と鼻を鳴らしながらケイトの顔を覗き込むと、困ったように、でもどこか嬉しそうに笑われる。
    「オレさぁ、ねーちゃんの彼氏……その後すぐに別れたけど、に、襲われそうになったことあって」
    「……は?」
    「ギリギリのところでねーちゃんが助けてくれたけど、無理やりちんこ入れられそうになったんだよね」
     だから、オレ、男の人嫌いなんだ。
     ケイトはお喋りなくせに、本当の自分というものは、それが別にあるのだと悟らせないくらい上手く隠す。
     今回だってそうだ。クラスでは男子とよく喋っているし、スカートは短め。シャツのボタンなんていつも上二つを開けているから、イデアのようにケイトよりも身長が高いと、下着のレースの端や日に焼けていない肌の境目が見えてしまうことがあるくらいなのだ。
     だからイデアはケイトのことを、“今はたまたま女の自分が好きなだけ”だと思い込んでいた。
     そもそも男が嫌いなんてと思って、「君って同性愛者なの?」というイデアの問いに、「そういうわけでもないけど」とケイトにしては言葉を濁していたことにようやく気がついた。
    ――そういうわけでもないけど、男の人は嫌い。
     過去のことがなければ違っていたのかもしれない。
     ケイトなりに、そのニュアンスを込めていたのだ。
    「ねえ、イデアくん。今日はもうシないの?」
    「……君を泣かせた後にシようって言えるほど鬼畜じゃないよ、僕」
    「オレが勝手に昔のこと思い出して泣いただけだよ」
    「そういうの、フラッシュバックって言うって知ってる?」
     誘うようにケイトは自分のキャミソールの中にイデアの手を引いたが、イデアはその腰を逆に引き寄せるようにして後ろに倒れ込んだ。軋むベッドに「もう寝るの?」とケイトが唇を尖らせたが、首を伸ばすようにして触れるだけのキスをした後、「寝る。眠くないけど」と短く答える。
    「……ちょっとびっくりしただけで、イデアくんが使いたいなら使いなよ。オレ、目ぇつぶっとくし」
    「いいよ。僕にないもので君が気持ちよくなっても腹が立つ」
    「勝手〜」
     いつものようにケイトが八重歯を見せて笑ったが、その睫毛はまだ乾いていない。瞬きするたびに重く揺れるそれにそっと触れると、ケイトはくすぐったそうに目を細め、そしてふっと口元の笑みを消した。瞼がじわりと熱くなって、また涙が滲む。
    「……ありがと、イデアくん」
     返事の代わりに背中を撫でると、ケイトは力を抜くようにしてイデアの胸に体を預けた。収まりのいい場所を探すように鎖骨に額を擦りつけられ、喉をくすぐるオレンジの髪から僅かに薔薇の匂いがする。
     シーツの中で互いの足を絡めた。ヘッドボードに置いていたタブレットに「電気消して」と呼びかけると、すぐに部屋は暗くなる。
     しばらくして、ケイトの規則正しい寝息が聞こえてきた。眠くないと言った通りイデアの目は冴えていたが、その理由は普段ならまだ起きている時間だから――ではない。
     天井に一瞬だけ赤いものが揺らめいた。炎の形をしたそれはすぐに消えて、代わりにタブレットが浮遊する。
     数日後、輝石の国の片田舎で一人の男が逮捕された。罪状は数年前の強姦未遂。新聞の小さな記事にすらならなかったその事件を、ケイトが知ることはなかった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator