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    risa50882145651

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    risa50882145651

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    支部で2月~3月くらいに書いていて今は消した
    s君とパイセンの話「卑しい猫と鼠の王」の再掲です。
    ※当然ですが、当アカウントで公開しているものは全て妄想であり、公式や各権利者等とは一切関係ありません

    6話「客観」スグリが数日間姿を見せない。
    鬼の部長様が居ないものだから、どうぞ今こそ心の洗濯と言わんばかりに部員は和気あいあいと無駄話をしているし、もちろん自分もかつてのように、いや、今でも概ねそうではあるが、部室でだらだらとお菓子を摘まんで楽しんでいる。

    「ゼイユ、あいつ、生きてんの?」
    「カキツバタ、あんたホント相変わらず失礼ね。……でも、毎日、昼は部屋にいないし、夜は鍵が掛けられてるみたいだから、無事だとは思うけど、わざわざ鍵を掛けるのもおかしいし……。あたしも、ずっと見てなくて」

    ゼイユは不安なときいつもそうするように、自分の両サイドの髪を掴んだ。

    「……その前に昼は鍵掛けてねーの? あいつ」
    「は? そうじゃなくて、夜に鍵掛けてるって言ってるでしょ?」
    「ん?」

    話が嚙み合っていないような気がして、とりあえずの笑顔でゼイユを見つめてみたが、ゼイユは何を言っているのかとでも言いたそうな見下した目付きをし、それから、もし何かわかったら教えなさい、と付け加えてそのまま部室を出て行った。

    「……え? もしかして、あいつら、普段から部屋に鍵掛けてない?」

    近くに立っていたネリネに話しかけると、ネリネは視線だけ寄越した。

    「キタカミ地方では、滅多に家に鍵を掛けない傾向があるというデータを見たことがあります。来客は勝手に家の中に入るようです」
    「まじかぁ……」

    不用心すぎるだろ、とぼやいてから、テーブルに突っ伏したままもう一度ネリネを見上げる。

    「ということは、オイラが勝手に行っても来客として扱ってもらえちゃう?」
    「個人間の関係性に依存するのではないでしょうか」

    ほーん、と返事をしながら、言い訳ならいくらでも立つなと考える。後輩が心配だったから、ゼイユが心配してたから、入っていいらしいって聞いたから、差し入れ持ってきたから、……なんでもいい。


    「お~~い、スグリよう、元気かーい?」

    夕方になっても彼は姿を見せなかったので、購買でスポーツドリンクやらパック飲料やらの『お見舞い』に見えるような物品と、食堂でテイクアウトしたポテトなどの『早く渡さないといけない』食べ物を持ってスグリの部屋のドアを叩く。
    返事はない。
    ゼイユの言によれば昼には居ないということだったので、まだ帰ってきていないということだろう。

    「……」

    ドアノブを掴んで、そっと回してみる。
    回る。確かに、回る。
    なぜか面白くなって、軽く吹き出してしまう。

    「邪魔するぜい」

    しかし、一歩踏み入れると、今ほどの高揚感とは対照的なほどに、薄暗くしんとした、寒々しい気配が広がった。電気を付けようと手を伸ばすと、枯れた観葉植物の乾いた感触が腕に当たった。パチンと音を立てて電気が点く。

    「は、」

    特に変な臭いもしないのに、なぜか息苦しさがあり、息を吐く。目の前のキッチンには段ボールから溢れたお菓子のゴミが散乱していた。とりあえず、テイクアウトしたプリンを冷やそうと思って冷蔵庫を開けるが、中には何も入っておらず、それどころか冷たくもなかった。見れば、抜かれたコンセントが床に打ち捨てられている。
    冷えるのには時間がかかるとはわかっていたが、とりあえずコンセントを差し、冷蔵庫が問題なく稼働音を立てるのを確認してからプリンとスポーツ飲料を入れた。
    それからどうするか、プライベートスペースに入って良いものか一瞬だけ逡巡するが、眠くなってきたので、ま、いっかと判断する。台所の換気扇を引っ張り、この重苦しい空気が心持ち換気されることを願いつつ、無遠慮にスグリのベッドの上に倒れ込む。

    「待たせてもらおっかい」

    どんな反応をするか、少し楽しみにしながら、案外寝心地が良くて、すぐに寝入ってしまった。


    急に寒気がして、意識が一気に覚醒する。
    目の前に狂った動きをする青とピンクの丸っこい機械のような生物が浮かび、そのくちばしのような部位を自分の方に向けていた。

    「おっ……」

    反射的に右手で自分のボールを掴みながら、視線で、帰ってきたのであろう彼を探す。ここからは、見えない。目の前の狂った生物が、ピーンピョロロロン、などと妙にかわいい音を出す。

    「すまんねぃ、スグリ、いなかったもんだから、寝ちまった」
    「何で、いるの?」

    声は玄関側から聞こえた。バスルームの前あたり、ちょうどこちらからは見えない位置に隠れているようだ。

    「いやね、スグリ部長様が最近いらっしゃらないもんで、みぃんな心配しててねい? 風邪でも引いたのかって差し入れ持ってきたんでさぁ。なんかゼイユのやつも部屋入って良いみたいなこと言ってたし」
    「……ねーちゃんが? ……本当?」
    「んー、まあ、一言一句同じではないけどねぃ。ニュアンス的に?」

    適当に繰り出す詭弁に、沈黙が落ちる。

    「……他人の部屋に勝手に入るのって、普通しないんじゃない?」
    「オマエら的には普通なんだろ?」
    「……キタカミのこと言ってるなら、玄関先の居間には入っても、そこから先には普通入らないけど」
    「んじゃ、仲良しのオイラ達は普通じゃないってことで」

    はあ、と聞えよがしの溜息が聞こえ、先ほどからずっと目の前で首を傾げ続けていた丸っこい機械生物が光と共にスグリの方に戻って行った。
    よっ、とわざと声を出しながらベッドから降りる。相手の戸惑った気配を無視して、ズカズカと近寄ると。
    そこには、懐かしい面持ちのスグリがいた。

    「ッチ!」

    下ろした前髪の奥から、かつては見せることのなかった、一方最近では見慣れた鋭い視線が飛んでくる。

    「んー、やっぱ風邪っ引きってことかねぃ? マスクまでして、オイラより余程不審者だぜ?」
    「……風邪じゃ、ない。不審者に見えないように、人と会わないようにしてるし」
    「ほーん?」

    上から下まで眺めまわすと、スグリは気まずそうに下を向いた。前髪で目元以外が隠れた上に、口元もマスクで隠した彼は、少なくとも普通の格好であるとは評価しづらい。

    「その割に服はそのままだし、心を入れ替えましたーってわけでもないってか?」
    「は? 入れ替える? そんなわけないだろ。俺は、もう昔の俺とは違う」

    スグリは足を小刻みに揺すりながら自分の前髪を引っ張った。

    「オイラはそういうかわいらしい髪型も好きだぜい? いっつも最強チャンプ・スグリ様にいじめられててカワイソ―な部員ちゃん達も、そっちの方がビビんなくて済むかもだしな?」

    ああ、もう、とスグリは苛立ちを露わにして、髪をまとめ始めた。

    「……ああ、ヘッヘ、そういうこと。青春のシンボルがねぇ~~~」
    「うるさいッ!!」

    現れたスグリのおでこには、いくつかの、少し大きなニキビができていた。

    「ま、チョコばっか食べてるとできやすいらしいからねぃ。むしろオイラ、そのゴミの量見てわざと青春のシンボル作ろうとしてるのかと思っちゃったくらいだぜ?」
    「えっ、そうなの……というか、変な言い方するな! ニキビ……吹き出物、困ってんだから!」

    嚙みついてくるスグリを適当にいなし、冷蔵庫を開けてプリンとスポーツ飲料を取り出す。

    「あー、差し入れに持ってきたんだが、まだ冷えてないかぁ。冷蔵庫くらい電源入れておけって。電気代なんかそんな大したことないだろ?」
    「うるさくて眠れないから抜いてんの! 勝手に電源入れんな! 常識考えろよ!」
    「……。へいへい」

    コンセントを抜くと、そう大きな音でもない、低い稼働音は止まった。同時に、スグリは手を伸ばして換気扇を止めていた。急に部屋が静まり返り、居心地の悪さを覚えたが、反面、スグリ自身はホッとしたように肩の力を抜いた。

    「ま、全然冷えてなくてヌルいけど、この差し入れのスポドリ飲んで、ビタミン栄養きっちりとってたっぷり寝ればできにくいぜぃ」

    スグリは差し入れのゼリー飲料を裏返し、内容成分を眺めていたが、ハッとしたように腰に付けた鞄を漁った。しばらく鞄を漁っていた彼に、これ、と言いながら差し出されたものは、折り目の沢山ついた見慣れない紙幣だった。

    「いーよいーよ、それ貰ってもオイラ使うこと無いし。もし金無くなったらオマエんねーちゃんに請求するわ」

    何か言いたそうな素振りを見せていたが、結局、スグリは紙幣を財布に仕舞った。その紙幣は取り出した時はなぜか財布ではなく、紙で作られた小さな封筒に入っていたものだったが、彼はそこには戻さないまま、その小さな封筒を握りつぶしてゴミ箱にしていた段ボールの中に投げ入れた。
    ふと顔を上げると、それまで気付いてはいたが努めて見ないようにしていた、壁にはみ出し赤く大きく書かれたメモが視界に入った。視線を逸らしてスグリを見たが、特に反応は無く、スグリ自身は、気付いているのか気付いていないのか、少なくとも他人にそれを見られる可能性について何も感じていないようだった。

    「……」

    それでも、相手の口元を見れば、白いマスクは定期的に小さく動き、真っ当な呼吸を見せていた。

    「ま、できた青春のシンボルは薬塗るのが一番早いけどな」
    「だから……。はぁ……」

    ポケットから出したスマホロトムを見ると、既に0時を回っていた。げ、こんな時間、と言いながらドアに手を掛ける。

    「寝ろよ、スグリ。おやすみぃ~~」

    スグリは面倒そうに片手を上げた。ドアが閉まる直前に、何か聞こえた気がした。お礼だったのか謝罪だったのかはわからないが、きっとそのどちらかだろう。あるいは不法侵入はもうするなと言われた可能性も無くはないが。

    ニキビくらいで心配かけるなよと全く思わないわけではなかったが、その一方、そのような一般的な思春期男子のような振る舞いができることは、間違いなく誰にとっても良いことだろう。

    平然と壁にはみ出した赤線のように、何もわからなくなるよりは。

    それならやっぱり、もっとかまってやんなきゃねぃ、と自分の中でつぶやいた。
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