ワンルーム殺人事件 狐の口から鮮血が漏れた。
ゴブ、ゴブッと咳と一緒に吐き出された血が真新しいフローリングに飛び散る。赤い斑点を狐はまじまじと観察する。想像していたよりもずっと鮮やかな赤い色をしていた。
これ、僕が吐いた?
確認を取るかのように白波を見る。その手にナイフが握られていた。刀身にはぬるりとした粘りのある血液が光っている。
それで僕を刺したの?
目で訴えかけるが、白波はいつも通りほのかに笑みを湛えた不思議な表情をしていた。その顔を見て、狐も思わず血を吐きながら笑った。
「ひどい、僕の事刺したんだ」
狐の言葉に白波は何も答えない。緑色の目がじっと狐を見ているだけだった。
初めて会った時も白波は狐を見ているだけだった。ジャングルジムに腰を下ろし、星空を眺める姿は今でも思い出せる。流れる銀髪を見た時の驚きと恐怖だって、鮮明に記憶の中にあった。
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