Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    2d_Y3ee

    @2d_Y3ee

    表にあげにくい絵や文などを置くところ

    ☆quiet follow Send AirSkeb request
    POIPOI 10

    2d_Y3ee

    ☆quiet follow

    どひふの短文
    6年前のものなので色々と目を瞑ってください

    ちいさなしあわせ いつも最高に最悪な気分で退社して、必死に走ってどうにか終電に乗り込んで、がらんどうの車内でひと息吐く。ここで睡魔と闘って、ふらふらとぼとぼ、家路に着く。
     ただいま、なんて言っても、大抵の場合返事はない。ただ冷蔵庫の中に、『おつかれ!』とバカでかく書かれた小さなメモ付きの作り置きがいくつかあるだけだ。
     それらをレンチンしている間にスーツを脱いで、適当に掛けて、ゆるい部屋着に着替えてから、湯気をたてる飯に手をつける。
     それから、熱い風呂で体を休めてから、テレビも見ずにベッドで独り、寝こける。
     俺が爆睡してるからか、あいつが上手く入ってくるからかは分からないが、あいつはいつも、何時の間にか、俺の隣で寝ている。

     朝だけ会って、夜は寝るまで、どちらも独りの時間を過ごす。


     だけど、今日は違う。



     いつもより何本も早い電車に乗り込み、睡魔と闘うことなく目的地に着き、やや早足で家路をたどる。
     電気のついた自宅に、ただいま、と言えば、おかえり、と陽気な声が帰ってくる。そのまま明るく笑うあいつが居間から俺を迎えにきて、スーツを剥がしてくる。
     俺が部屋着を着終える頃には、食卓にはすでに、やわらかく湯気をたてる美味そうな飯が並んでいた。

     「ほい!飯できたよ、どっぽ!」
     「ん。……新しいメニュー、か?これ」
     「そ!今日子猫ちゃんに教えて貰ってさ。どっぽの好きなモン入ってるし、ちょうどいっかな、って」
     「へぇ……あ、美味いな、これ」
     「だろ?早く帰ってこれたから丁寧に作れたんだぞ~、いっぱい食えよ!」

     たわいもない会話をしつつ、美味い飯を食う。


     「なぁどっぽ、風呂入ろーぜ!」
     飯を食い終わって、一息ついていると、一二三はいたずらに笑って、誘ってくる。
     今日はバスボムを使ってみた、なんて言われるから、ほんの少し好奇心をくすぐられて、俺はあいつについていく。

     なるほど確かに、バスタブは淡く紫色に染まっている。湯船に入れば、ふわり香るラベンダーが疲れを揉みほぐしてくれるようだ。ついつい長く息を吐くと、後から入ってきた一二三に「おっさんみてぇ!!」と笑われた。


     「めっちゃラベンダーの匂いすんだけど、チョーヤベー」
     風呂上がり、一二三は相変わらず、陽気な声で話す。確かに全身からラベンダーが薫ってくる。
     「……まぁ、たまにはいいかもな。こういうのも」
     「だろー?そーだ、今日どっぽ、超早かったけど、なんかいいことあった系?」
     「……今日、な……俺、仕事上手くいったし、契約もとれたんだよ。そしたら上司に、もう上がって良いって言われたから、帰ってきた。」
     俺は今日の出来事を思い出す。いつもうまく逃げられてしまう所と契約が出来たことで、いつも俺を叱ってくるクソ上司は上機嫌。早く帰らせてくれたのだ。

     それを聞いて、ポカンとしていた一二三は、やがて大きく目と口を開いた。
     「マジで!?ヤバッッ、どっぽ超スゲーじゃん!!あー、じゃあ今日もっと豪華なメニューにすりゃ良かったなぁ……でもやっぱ、どっぽ超すげぇ!サイコー!!」
     でかい声で褒めたり独り言を言いながら、一二三は俺のまだ濡れてる髪をぐしゃぐしゃにかき回す。抱きついてくるから、ラベンダーが強く薫った。
     もちろん俺も嬉しいのだけど、俺より何倍も嬉しそうに笑う一二三を見てると、達成感が湧く。こう素直に褒められるのは、悪い気はしない。


     「んじゃ、もう寝るか~!へへ、ベッド、ラベンダーの匂いつきそーだな」
     「……安眠効果あるし、いいんじゃないか、多分」
     「そっか!じゃあ丁度いいかも、な……」
     ベッドに我先に、と飛び込んだ声が途中で途切れたかと思えば、もう寝てしまったらしい。まだ数秒しかたってないぞ、なんて思いながら、俺もベッドに入る。
     こんな充実した日は何時ぶりだろうか。この時間が終わってしまうのが惜しかったけれど、まぶたが重くなったから、俺も素直に眠りについた。



     「な、どっぽ」
     「ん?」
     「今日は、俺っちが腕によりを掛けてスペシャルメニューつくっから、楽しみにしててねん?」
     俺が出勤する際、一二三はそういって、いたずらを企むような笑みを見せながら見送ってくれた。

     「……ああ」
     

     楽しみが先に出来るなんて、何時ぶりだろうか。昨日考えたようなことをまた考えながら、俺は会社に向かった。

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖💖💴💴💴
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works