瞼を開けると、真っ赤な空が視界一杯に広がった。
ほんの少し前まで太陽が高く昇っていた空は青々としていた筈なのに、いつの間にやらすっかり日が暮れている。
まだ少し重い瞼を持ち上げて、首を巡らせて辺りを見ると、すぐ傍らで大神が身を丸めていた。秋も半ばの夕暮れ時、いつもなら肌寒いくらいなのに妙に暖かかったのは、これのおかげか。
「はよ」
のそのそと上体を起こすと、大神とは逆の方から声がした。
振り返れば、橙色の光を放つ小さな妖精が、目の前に広げた紙に筆を走らせているところだった。
お早うと返すと筆を止め、甲虫で作った兜がぼくを仰ぎ見る。
「よく寝てたなァ」
「……みたいだね」
寝起きのやや掠れた声に知らず苦みが混ざる。
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