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    80okaaa

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    ホルセト風手作りサラダ〜ワンドロ仕立て〜の投稿作品です
    お題は「嫉妬」

    #イシス
    isis
    #ホルス
    horus
    #背景はホルセト
    #ホルセト
    horsetoe
    #ENNEAD
    #エネアド
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    #二次創作小説
    secondaryCreativeFiction

    莫迦(ばか)「しばらくあなたの顔を見たくないし、声も聞きたくない」

    立ちすくんだように動きを止めていた私の息子は、わかりました、と告げて部屋を出て行った。

    ********

    弟、セトが帰ってくる。
    太陽の舟を降りたあとは、私が後見人として彼を預かることになるらしい。

    少し前、
    当初は永遠と言われていた刑が有期刑となった。
    セトが自らが害したすべての魂を救済したことに加え、神としての自覚を持ったことが減刑につながったそうだが、実際のところ、その決め手はわからない。
    セトがヘリオポリスに戻ることが誰かの利となるのかもしれない。
    誰か
    エジプトの神の中で最も力を持つ誰か。
    残念ながら、王である私の息子ホルスはそれではない。

    それはきっと
    王権を奪われ、日陰に追いやられた日輪の神。

    だが、ホルスがその利に一枚噛んでいたなどと、誰が思えようか。



    受刑中の身であるセトのもとを、思えばホルスはたびたび訪れていた。

    心優しい息子だから叔父を不憫に思い手助けしようとしているのだと、そう、思っていたのに。

    大切な話があると言ったホルスの言葉なんか、聞きたくなかった。
    あんな話をされるなら、いっそのこと永遠に隠しておいてほしかった。

    嗚呼、不愉快


    セトとは和解したが、わだかまりが消えたと言えば噓になる。
    今も、あの夜を思うと心に澱が溜まっていく。
    けれども弟を不憫だとも、思う。

    そして、私も
    不憫なんだ、

    と思う。



    大昔、
    私の神官のひとりに、神と人との間に生まれた半神の男がいた。
    その者は権能もなく人間とさほど変わりなかったが、魔法の力に長けていた。
    十八歳かそこらだったがすでに大神官の地位にいた彼は、機転が利き、また生来の気性も好く、私は側に置いて重宝していた。

    セトはその頃、私の神殿に何をするでもなくたびたび来ていた。
    まだ少年の姿で、人間でいうところの十二、三歳といった容貌だったと思う。

    あの日もふらっとやってきて、いきなり中庭で昼寝を始めた。
    当時、私の神殿はいつも閑散としていた。信頼できる少しの神や人間だけを置いていたから。
    静まり返った神殿の中庭の木陰で、セトが気持ちよさそうに眠る。
    いくらもしないうちに太陽が傾き、セトを光が照らすようになったのを見て、私は仕方なく魔法で小さな天蓋を出してやった。
    眉の間に皺を寄せてまぶしそうに眠っていたセトが、陽光から逃れられて、気持ちよさそうにいびきをかいている。

    ふん、ばかな弟。

    私は忙しくて、奥の間でしなければならない仕事があった。
    ふと気づけば、こんなときはいつも必ず側で手伝ってくれる大神官が居ない。
    仕事は、山ほどある。
    どこへ行ったのかと思うが、探している暇なんかない。

    ほどなく、大神官が保管している神事の記録が必要になってしまって、私は仕方なく鳥に大神官を探させることにした。
    神官が行きそうな場所に鳥を飛ばして呼んでくるように言ったがなかなか戻らない。
    外を見ると雨が降り始めていた。
    中庭で寝てるバカは、おそらくまだ夢の中。
    鳥の嘴でつつき起こしてやりたいのはやまやまなれど、大神官を探しに行ったまま戻らない。
    仕方なく私は、自分で中庭へと向かった。

    中庭に着いた時には、雨は本降りになっていた。

    雨足が強すぎて天蓋の中の様子がよく見えない。
    セト、と声を出そうとしたが、天蓋の下、他にも誰かいるのが見えた。
    背中が半分、セトに覆いかぶさっている。
    大神官?
    ああ、セトを起こしてくれているのね。
    よかった。大神官を探す手間も省けた。

    そう思ったが


    ところで、その頃のセトはまだ冠がなくて、少女と見紛う顔立ちを、惜しげなく晒していた。
    透き通った紅玉の瞳がくるくると表情を変える様は可憐、という他になんて言ったらよかっただろう。
    あの頃、セトの姿は見る者の目を悉く奪うものだった。

    そして、

    ああ、気配が無い。

    大神官は、気配を無くする魔法を得意としている。
    使われたら、私でもなかなか彼を探せない。
    今、
    彼は弟の前でその魔法を使っている。

    ねえ

    どうして起こすのに気配を消すの?
    雨の音にも気づかず眠っている弟に、なにをする気なの?

    神官の顔が少しずつ弟に寄せられていく。
    触れそうなほど近づいて、

    セトに口づけする寸前に、雷を落とした。

    「うわびっくりした!!なんだよ!」
    ばかの弟が飛び起きた。
    足元に昏倒する大神官の姿を不思議そうに見て、なんだこりゃ、と素っ頓狂な声を出した。
    「それにしてもすげー雨だな。雷落ちたのか?こいつ死んでんじゃねーの」
    「気絶してるだけよ。どうでもいいけど、はやく中に入りなさい」
    「あー、うん」
    ばかの弟は大口をあけて、ほああーーー、とあくびをした。
    ばかな顔して。


    セト様をお慕いしておりました

    大神官は臆面もなく、そう言った。
    私はこの者を更迭した。
    殺してもよかったけど、殺したくなかった。
    いらいらしたから。
    本当に腹が立ったから。
    どうしてかはわからないけど、頭にきてこいつを殺すのが嫌だった。
    まるで、
    まるで私が・・・・



    「叔父様と愛し合っています」

    何を言っているの。
    何を、言っているの?

    「叔父様が許してくれるなら、結婚したいと思っています」

    だから、
    何を言っているの?
    私をおいていかないで。
    勝手に話をすすめないで。

    「叔父様がここに住む前に、母上にお話しておきたかったのです」

    なんなの?

    いらいらする。
    なんで、こんなこと今言うの?
    いつから私に・・・

    「足繁く太陽の舟までセトに会いに行っていたのはそういう理由なのね。ラーとも何度も謁見していた。なにか利害が一致したの?」
    「今まで黙っていたのは申し訳なかったと思っています。ですが」
    「ですが、何?なかなか言えなかった?ふふ、そうよね。そもそもセトは私たち二人の共通の敵だった。でもそう思っていたのは私だけだったんだわ」
    「母上、それは」
    「いつからなの。私を裏切っていたのは一体いつからなのよ」

    ホルスは信じられない言葉を吐いた。
    ケンミスですって?
    あのとき?
    小さなあなたはいきなりセトの城に単身乗り込んだ。
    私は狂ったようにあなたを探した。
    狂ったように、狂って、あなたを探した。
    どれだけ嬉しかったと思う?あなたの無事を知って。

    戻ってきたあなたを抱いて、セトへの復讐を誓った。
    ホルス、あなたのために、あなたのすべてを取り戻してあげると誓った。
    なのに、

    「私ひとり、莫迦みたいだったってことね。あのときからひとりで私は」
    「待ってください母上、どうか、」

    パァン

    ホルスの頬と私の掌が音をたてた。
    ホルスの冠が落ちる。

    私そっくりの青い目で、悲しそうにこっちを見ないで。
    悲しいのは私よ。

    「自分の部屋に戻りなさい。しばらくあなたの顔を見たくないし、声も聞きたくない」

    わかりました、と言って部屋を出て行った息子に、腹が立って仕方ない。
    息子に、腹が立って腹が立って、腹が立って。

    息子に。

    セトにも。

    ねえセト、いつもあんたなの。
    全部あんたなの。
    あんたはそう、
    自分が望みもしないのに持ってるもので、誰も彼も引き付ける。
    別に欲しがったわけじゃないって顔して、みんな持っていくのね。

    そう、あのときもそうだった。
    私はあの神官を気に入っていた。
    人間風情に恋なんかはしないけど、でも気に入ってた。
    真面目で、優しくて、私のことを好きだと思ってた。
    ううん、きっと私を好きだった。
    あんたを見るまでは。

    ああ、そうだ。
    わかった。
    私は、あんたに負けた腹いせみたいにあいつを殺すのが悔しかった。
    だから殺したくなかったんだ。

    あんたは別に欲しくないと言うでしょう。
    どれも望んだわけじゃないと、そう言うのでしょう。

    知ってる。
    知ってるのよ、
    オシリスとのあの夜に、あんたが泣いていたのも。

    それでも我慢ならないの。
    私はあんたに嫉妬する。


    ―叔父様と愛し合っています

    それじゃ、ホルスのことは?
    望んでいるの?欲しいと思う?

    ああ、腹立たしい。
    私の最愛の息子までもっていくのね。

    最悪の悪弟。

    ばかのセト。


    私はね、

    とうとう幸せになるあんたに嫉妬するし、でも、

    ・・・ほっとするの。



    〈了〉
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